9月17日、雨の埼玉・熊谷ラグビー場Bグラウンド。20歳以下(U20)日本代表の藤井大喜が、早くも所属する大東大の右PRとして関東大学リーグ戦1部の初戦に先発した。
8月下旬からのツアー、さらには乗り換え時間を除いても約26時間というフライトを終えたのはわずか5日前のことだった。他大学のU20組が公式戦出場を自重するなか、藤井はタフな選択をしたこととなる。
試合ではスクラムで優勢を保ち、関東学院大を50−12で下した。直後、経緯を苦笑して語る。
「戻ってきたら、(関東学院大戦の)リザーブでメンバーに入っていた。『何かあったら出すぞ』と言われていたんですが、結局、次の日の練習で『スタートから行けるだろう』という雰囲気になって…。長時間の移動での疲れもあったので、最初に聞いた時は『!』という感じでした。ただ、『試合に出られない選手もいるなかで優遇して出してもらうのだから…』と気持ちを切り替えました」
U20日本代表は8月下旬から、ウルグアイでワールドラグビーU20トロフィーに出場していた。チームは故障者続出も、現地時間9月10日の決勝でU20ポルトガル代表を14−3で撃った(雷と豪雨により途中切り上げ)。
背番号3をつけてスターターを担った藤井は、後半6分に敵陣ゴール前中央左寄りで自軍ボールスクラムを押し込んでのトライを演出。遠藤哲ヘッドコーチ、斉藤展士スポットコーチと、8人一体型のスクラムの形を丹念に確認してきた結果だったという。
「前の3人が固まって、それを後ろの5人が押す…。8人の塊で押せている、前の3人が固まっていたことで自分がより前に出やすい、という感覚がありました。スクラムって、固まることが大事なんだとわかりました。外国の重い相手にも低く組むことで、スクラムトライが獲れたりして…」
その資質は、長期ロードを経て出場した関東学院大戦でも活かされたようだ。前半17分、大東大FWは敵陣ゴール前左での相手ボールスクラムをターンオーバー。間もなく先制した。さらにハーフタイム直前には、敵陣ゴール前右の自軍ボールを押し込みチーム4本目のトライを演出した。前半を26−5と、大量点差をつけて折り返した。
身長184センチ、体重112キロの2年生は胸を張る。
「何よりもスクラムが自分の武器だと思っている。まずはスクラムが最優先です。1番(左PR)の古畑翔さんが強いので、1番側から前に出られる。そこに自分もついて行って(相手の塊を)真ん中から割ることを意識しました」
岩手・黒沢尻工高時代もU17日本代表、高校日本代表候補に名を連ね、大東大でも1年目の春季大会から先発のチャンスを得たが、夏合宿中の明大との練習試合でスクラムをまくられる。ここから先発の座を中村和史(現日野自動車)に譲り、シーズンが本格化する秋以降はベンチウォーマーとなった。
当時の辛苦を肥やしにして、今季はビッグスクラムを組みたい。具体的には、相手と組む直前のつかみ合いから力を込めるという。
「1年生の時の明大戦で、自分が及ばずにスクラムトライをされてしまった。そこから秋は、悔しい思いをして…。ただ、試合での中村さんを見て少しでも学べるようにと意識しました。僕の未熟だったところを、中村さんはできていた。最初のバインドで(相手に圧力を)かけながら自分のいい姿勢を取るという、自分のできていなかったところなどを修正できました」
前年度3位のリーグ戦1部で優勝を狙うなか、「どの相手からもスクラムトライを獲ったり、スクラムターンオーバーができたらいい」と誓う。
(文:向 風見也)