ラグビーの日本代表候補が集まるナショナル・デベロップメント・スコッド(NDS)の第5回目の合宿初日を3日後に控えた9月12日、松橋周平が1人で汗を流していた。
東京にある、所属先であるリコーの本拠地グラウンドでのことだ。午前、午後の2回に分けておこなわれたチーム練習を終えると、グラウンド脇の小屋へ移動する。備え付けられたフィットネスバイクを漕ぐためだった。
居残り練習をしていた他のチームメイトが次々と引き上げるなか、息を切らして言った。
「ちょっと、上げておかないと」
明大を卒業した昨年から、大忙しである。昨季は日本最高峰のトップリーグで全15試合に先発し、新人賞に輝く。その間に日本代表デビューも果たし、今年2月からは国際リーグのスーパーラグビーに参戦。日本代表とリンクするサンウルブズの一員として、列強国のクラブとのゲームを9度経験した。
合間にいくらかの臨時休養も得ているが、どの季節でも試合への準備に関わるため「身体を作る時期」を作れなかった。日程を変えられないのなら、与えられた日程下でのセルフプランニングを変える。個別で持久力強化に励む姿に、その意識をにじませた。
「身体を作る時期がなかったので、うまいこと(時間をやりくりして)やろうかなと」
今季のトップリーグでもリコーの主力格として遇されているが、9月2日の山口維新公園グラウンドでの第3節は「ダメージが大きかったので」と欠場(対サニックス/〇35−14)。自らの身体を追い込む意欲と、自らの身体と相談して休む勇気。このふたつを両立させる。
この日は、昨季史上最高の6位となったチームについても語る。今季は第4節終了時点で2勝2敗。前年度1、2位のサントリーとヤマハに屈しながら、セットプレーや防御に手ごたえをつかんでいる。2年目にしてリーダー候補とも目されるなか、勝負どころにおける「意識」を研ぎ澄ませたいという。
「サントリーとヤマハには負けていますけど、思った以上にやれている部分はある。点数の差は、敵陣22メートルエリアでスコアしているかどうかの差。ここの意識は、普段の練習からしか出せない」
FW第3列のFLやNO8に入る身長180センチ、体重99キロの23歳。国際舞台で挑む相手チームには、自分と同じポジションに自分より大きな選手のみが並ぶことも珍しくない。生来の腰の強さ、接点周辺での身体の使い方で対抗する。
予定通りに参加したNDSでは、フィットネステストが実施された。6月のアイルランド代表との2連戦を落としたことなどを受け、日本代表は持久力の再構築を目指すと表明していた。
松橋は脳しんとうの疑いなどのためフィットネステストを回避も、より走れる選手になるべく腹を括る。キャンプ解散後の取材機会に、こう口にした。
「現状を見たら、もっとハードワークしないといけない。トップリーグの試合期間でもありますけど、別なメニューをしてフィットネスレベルを上げていきたいです。(NDSでは)ワールドレベルというフィットネスの基準値が出されていて、今回はほとんどの選手がそれをクリアできていない。頑張らないといけないな、と思っています。自分ももともとフィットネスは苦手ですが、その苦手な部分にチャレンジしていきたいと思います」
目指すは、2019年のワールドカップ日本大会での日本代表入り。さらに直近では、11月にオーストラリア代表やフランス代表などとの試合も組まれている。日本代表での存在感を高めるためにも、この期間での戦いで「最高のパフォーマンスが出せるようにしたい」と松橋は言う。
「ビッグチャレンジ。そこで(互角に)やれると証明できたら自分にとっても2019年につながっていきますし、チームとしても自信になる」
この松橋を擁するリコーは9月23日、福岡・レベルファイブスタジアムでコカ・コーラとのトップリーグ第5節に挑む。
(文:向 風見也)