劇的トライが生まれる直前の攻防。サントリーの桶谷宗汰にタックルするヤマハのヴィリアミ・タヒトゥア
(撮影:松本かおり)
<ラグビートップリーグ2017−2018 第3節>
サントリー 27−24 ヤマハ発動機
(2017年9月2日/東京・秩父宮ラグビー場)
4点ビハインドで最終局面を迎えたサントリーは、接点の数を21とした敵陣22メートル線右で球を後ろへこぼす。WTB中鶴隆彰が駆け戻ってそれを拾う。命をつなぐ。
「ちょっとしたミスがあっても我慢…。試合を通してサントリーらしいアタックはできていなかったけど、最後は練習の成果が出たかな、と」
決死の総攻撃は27個目の局面で変化が起きる。CTB村田大志の首まわりを、対するCTBマレ・サウがつかむ。ヤマハの反則が取られる。
試合終了のホーンが鳴るなか、サントリーのSH日和佐篤がペナルティキックから速攻。一瞬だけ腰の浮いた防御の間をSO小野晃征が射抜く。直後のゴールも決め、スコアは27−24。
ヤマハのHO日野剛志は悔やむ。
「『攻めてくるから、(守備網に)広がれ!』と言ったつもりでしたが、一瞬、間が空いたような…。そういうところで、やられたかなと」
惜敗のヤマハはスクラムで魅した。前半7分、ヤマハ陣ゴール前右で相手のスクラムを押し返す。攻守逆転。その後も強烈なプッシュを重ね、新任の田村義和スクラムコーチは「安心」。胸をなでおろした。
もっともサントリーは、前半をリードして終える。
10−10の同点とされていたハーフタイム直前。サントリー陣ゴール前で、ヤマハのFB五郎丸歩が突破。そこを「(前の防御が)抜かれるなと思って、リアクションした」とカバーして止めたのは、対するFB松島幸太朗だった。
さらにSH矢富勇穀のロングパスを、防御の群れから思い切って飛び出た中鶴がインターセプト。折しもヤマハに一時退場者が出ていてサントリーに数的優位があり、中鶴は「僕が前に出ても大丈夫」と判断。最後は村田がヤマハ陣ゴールエリアまで一気に走ったのだ。17−10。
スクラムでは後半序盤も苦しんだが、右PR畠山健介、HO青木佑輔の日本代表経験者が19、26分にそれぞれ最前列に参戦。フル出場したヤマハの日野に、違和感を覚えさせた。
「組み方が独特というか、低い。嫌らしいな、と感じていました」
それでも怯まぬヤマハは終盤、強靭な海外出身者2名を投入する。そのうちFLヘル ウヴェは28分、相手側の密集に長い手をかけ反則を誘う。31分、振り子の攻撃でNO8堀江恭佑主将が逆転。サントリーは20−24と追う立場になる。
しかし、最後に勝つ沢木敬介監督は「選手には、ボールを持てば前進できる感覚があったと思います」。向こう10分間、攻めまくり、薄氷を踏む思いで白星を得た。
敗れた昨季2位の清宮克幸監督が「自信を持って進める」と語るのとは対照的に、沢木監督は「完全に負け試合です」。劇的勝利を「感動」でまとめないことで、この先の進化への期待感を抱かせる。
「いいアタックもありましたけど、プレッシャーのなかで正しい判断、スキルでしてフィニッシュできるかというところが(足りない)。チームの成長への意欲が、より湧いてきました」
物語はまだまだ続く。
(文:向 風見也)