ピッチに立つ仲間をオーガナイズする力に長けるトヨタSH滑川剛人。(撮影/松本かおり)
ロッカールームに響く歓喜の声から伝わってくるものがあった。
勝利を得た後の充実感。外に漏れる大きな笑い声は、チームの結束を表している。
トヨタ自動車ヴェルブリッツの雰囲気がいい。
開幕のヤマハ発動機戦こそ惜敗(11-14)するも、22-9と勝った近鉄戦で今季初勝利を挙げると、9月2日のキヤノン戦に32-14のスコアで勝利し、白星を先行させた。今季から指揮を執るジェイク・ホワイト監督(元南アフリカ代表監督/2007年W杯優勝)が選手たちの心をつかんでいる。
キヤノン戦で今季初先発したSH滑川剛人(なめかわ・たけひと)が言う。
「昨シーズンまでとチームの空気がまったく違います。毎日の練習の雰囲気も変わったし、ロッカールームがあんなふうになることはなかった」
今季が入社6年目。SHの中でチーム最年長になった。
「先日、麻田さん(一平/クラブのOB)がグラウンドに来たときにそう言われて気づきました。もう、お金が飛んでいって大変」
後輩たちを食事に誘う機会も増えた。自分の知識を伝えることも少なくない。
「大きなFWを動かす。強いBKを前に出す。誰が出てもトヨタのSHとしてのプレーができるように、と考えています」
チームの日常に活気が溢れているのは、誰にでもチャンスが与えられる空気があるからだ。昨年はある程度固定されたメンバーで戦っていた。それが今季は、開幕からの3試合だけを見ても毎試合の先発が入れ替わっている。
「こう戦う、というものを明確にしてくれるから戦いやすい。チームの決まりについても同じ。違うことをやったり、軽いプレーにはとても厳しい」
誰にでもチャンスをつかめる可能性が転がっている一方で、信頼を失うプレーをすれば容赦なくメンバーから外す。各試合の出場予定者は週はじめに発表する場合もあるが、少しでも気を抜いたようなところが見えれば変更が告げられる。そして、一人ひとりの起用理由も明確だから全員が納得できる。
今季の開幕戦で21番を背負うことになった滑川は、その理由を指揮官に尋ねた。
「はっきり答えてくれました。話しにいけば全部教えてくれるんです。開幕戦の時は、ボールを動かし、ヤマハFWをうしろに下げる。そしてエリアをとり、トヨタFWを楽にさせたい。そういうゲームプランで戦うから、最初に平野(航輝)で、お前にゲームをしめてもらいたい、と」
そんなふうに言ってもらえたから準備に没頭できたし、ピッチに立てば自分の役目に集中できる。
「一人ひとりSHとしての持ち味は違うので、それぞれが自分の強みを出していくのが理想だと思います」
滑川自身は、自分の強みを「オーガナイズする力」と考えている。だからシーズン序盤という難しい時期に、「しんどい時間帯にゲームを終わらせる役目を求められている」と理解した。
キヤノン戦では、昨季は控えにまわることが多かった春山悠太、増田大暉のふたりが先発でCTBコンビを組み、いきいきしたプレーを見せた。昨季レギュラーとして活躍していたFL安藤泰洋はシーズン前からAチームを外れ、開幕戦のメンバーにも入らなかったが2戦目から先発に名を連ね、いい働きを見せている。
だからといって次の試合にも彼らが出るかどうかは分からないが、それがいい。
本人たちはその座を死守しようと必死になり、他のメンバーも燃える。それがチーム全体に熱がある要因だ。
滑川は、「(ジェイクは方針が)ふにゃふにゃしていない」と言った。
「今年は敵陣で戦うことを徹底しています。そして、ダメなことはダメと言う。例えば偶然オフロード(パス)が成功したとしても、うまくいったからいいのではなく、その判断が正しかったかどうかが問われます」
アスリートとは、越えるべきハードルの高さをはっきり示しさえすれば、それを越えようと全力を尽くす生き物だ。
世界的指導者がハンドルを握る今季のヴェルブリッツは、一人ひとりの上へ、先へと進みたい思いが、チームのエンジンとなり、ガソリンとなっている。