決勝トライを挙げ、松島幸太朗ら仲間に祝福されるサントリーSO小野晃征。(撮影/松本かおり)
黒×黄の10番がゴールポスト脇に飛び込んで好ゲームに決着がついた。
その瞬間、直前まで24-20とリードしていたヤマハ発動機は天を仰ぎ、サントリーは歓喜の輪を作った。
9月2日に秩父宮ラグビー場でおこなわれたサントリー×ヤマハ発動機。27-24で決着がついた試合は、シーズン開幕から3週目にして、ファイナルに近い緊張感があった。
昨季は12月24日、全勝同士で激突してサントリーが41-24で勝っている。ホーム(ヤマハスタジアム)で悔しい思いをしたヤマハの強いリベンジスピリットが、約8か月後の対戦を熱くした。
特に気持ちが入っていたのがジュビロFWだ。昨季はファーストスクラムでプレッシャーを受け、それがゲーム全体の空気を変えたこともあったからだ。
その屈辱を胸に秘めた8人は、この日、立ち上がりからセットプレーで圧力をかけ、接点でハードに戦った。特にスクラムで圧倒した。
そんな状況の中でも、勝利をたぐり寄せるゲームコントロールを見せたのがサンゴリアスのSO小野晃征だった。
前半13分、ターンオーバーからの攻撃でWTB江見翔太が先制トライを挙げたものの、同19分にはPGで差を詰められ、同31分には自陣深くのスクラムで苦戦を強いられた後に逆転のトライを許す展開(SH矢富勇毅)。前半終了直前にCTB村田大志がトライを決めて17-10としてハーフタイムを迎えて考えた。
「セットプレーのエリアが悪かった。やはり自陣でのスクラムで圧力を受けるような展開になるとレフリーの視点も変わってくる(厳しくなる)ので、そこをどうにかしようとリーダー陣で確認し合いました」
後半は風下に立ったけれど、SH流大からのキックも使ってできるだけ敵陣に入った。自陣深くに入り込まれてのスクラムはほとんどなくなった。
力×力の真っ向勝負。そして駆け引き。互角の戦いは試合終盤まで続いた。
後半22分で20-17、サントリー3点リードとなった展開は、同31分にひっくり返る。ヤマハがキックカウンターから力強い突破をつなげ、NO8堀江恭佑が逆転トライ、コンバージョンも決めて24-20としたからだ。
そして、そこからのラスト10分が白熱した。
小野が振り返る。
「まだ10分ある、と思いました。ただ、ボールを10分間持ち続けるのは難しいので、チャンスが来たときに攻めよう、集中しよう、と」
落ち着いていた。
チャンスは後半36分過ぎに訪れた。
ヤマハのノックオンによりピッチ中央でのスクラムを得たサントリーは、27フェーズのアタックを重ねて敵陣深くに攻め込む。そしてハイタックルを受け、PKを得た。
キックオフから80分経ったことを知らせるホーンが鳴っていた。
「お互いセットを組むと思っていたように見えたので、日和佐(篤/SH)と攻めようと話しました。それで(外の)スペースにボールを運ぼうと思ったのですが、ボールを持った時にトイメンがフロントローだったので自分で走った」
全体の状況と目の前を見て判断し、奪った逆転の決勝トライだった。
最後までピッチに立ち続けた10番は、この試合のマン・オブ・ザ・マッチに選ばれた。これで開幕から3戦続けてフル出場。昨季終了後には痛めた肩を手術、復帰までに長いリハビリ期間を要したが、コンディションをしっかり整えて開幕を迎えた。高いプロフェッショナル意識を持っている。
「たまたま勝てた。それは喜んで、また新しい週が始まったらハードワークを重ね、自分もチームも、もっとうまくならないと」
結果を残し続けてこそ経験。
そんな哲学を持つSOは頼りになる。