パナソニックの司令塔、ベリック・バーンズは「どうぞ、どうぞ」と言った。WTB福岡堅樹の充実について話しているときだった。
トレーニング時の回想だ。
「(実戦練習をしているときに)もっともタックルしたくない選手ですね。とても強いから、どうぞ、どうぞ(走ってください)という感じ。どこまで成長していくのでしょうね」
日本代表、サンウルブズでの生活を経て、これまで以上の速さで進化し続ける福岡。9月1日、47-10と東芝を圧倒した試合でのパフォーマンスは抜群だった。トライこそなかったものの、急加速ランで好機を作り、ハイボールキャッチで相手を跳ね飛ばす。チームに勝利を呼んだ。
この日のパナソニックは福岡だけでなく、ピッチに立つ選手、試合途中にベンチから出てくる選手の誰もが輝かしい実績を持ち、その看板に違わぬ働きを見せた。
12番を背負ったルーキー、松田力也もその中の一人だ。
開幕からインサイドCTBとして先発し、この日が3試合目。前半24分には、右中間に飛び込んで自身トップリーグ初のトライをマークした。
「自分の前が空いていました。そこにバーンズがうまくボールを運んでくれた。(0-10と)リードされていた時間帯のトライだったので、あのトライからチームが勢いづけばいいな、と思いました」
さりげなくそう話すが、「外にスペースがあるのは分かっていたのでコールしました。ディフェンスが(自分の外のWTB山田)章仁さんに行っているのが見えていた(ので自分に放ってもらった)」と状況判断できていたから生まれたものだった。
ルーキーとは思えぬ落ち着いたプレーを強みに、スター軍団の中でしっかり自分の持ち場を築いている。レベルの高い選手に囲まれている環境に刺激を受けるし、互いに生かし、生かさる。
「判断力の面では、バーンズというお手本が練習中も含めて近くにいるので、すごく参考になる。自分もああいった、チームに貢献できる選手になりたい」
成熟した選手がピッチのあちこちに散らばっている。その真ん中に立っていると、このチームの強さを支えているものが何かよく分かる。
「外側の選手のコールが早くて的確なので、内側のプレーヤーがうまくプレーできる」
質の高いコミュニケーションに「引っ張ってもらえているし、信頼してプレーできています」と話す。
後半25分に奪った自身この日2つめのトライも、バーンズとの連係が効いた。
相手キックを受けた後のカウンターアタックから生まれたものだった。ラックからボールが出た瞬間、バーンズの前が空いているのを見た松田はコールして、そこを二人で攻めた。
抜け出たバーンズの走るコースを見て、自分は外から内にサポートコースを変えた。バーンズがチラッとこちらを見たのが分かった。ここ、というタイミングで声を出してラストパスをもらう。そのままインゴールに駆け込んだ。
パワーでもスピードでもなく、基本プレーを重ねて挙げた見事なトライにチームの充実が浮かぶ。
「(バーンズと)一緒にスペースに入った感覚でした。1試合1試合成長してチームに与える影響力を高めていきたいです」
シーズンの深まりとともに、松田力也はもっと進化していくのだろう。そして、ジャパン、サンウルブズでの日々を経て、さらなる高みへ。吸収力、適応力もまた、この男の強みだ。