ラグビーリパブリック

圧巻の走りはどう生まれたか。サントリー松島、「調子がいい時」の条件示す。

2017.08.31

リコー選手とボールを競り合うサントリーの松島幸太朗(撮影:?塩隆)

 圧巻は、11点リードで迎えた後半28分のワンプレーだった。
 敵陣22メートルエリア左で球を受け取ると、目の前のスペースを直進。追いすがるタックラーを振り切ると、進路をふさぐ2人の防御網も強行突破する。最後はひらりとインゴールへ飛び、スコアを31−15と広げる。
 8月25日、東京・秩父宮ラグビー場。スタンドを沸かせたのは、日本代表の松島幸太朗だ。国内最高峰トップリーグの第2節にサントリーのFBとして登場し、持ち前のボディバランスと積み上げた筋力を活かした。
 前年度王者のチームは、同6位のリコーと対戦し31−15と打ち合いを制す。勝った松島は、この日に最も活躍したとしてマン・オブ・ザ・マッチを受賞する。薄暗い取材エリアに現れると、あの走りの背景を淡々と説明するのだった。
「相手も疲れてきていた。そこでいかに自分のランが効くのかを試したかった。そういった部分では、まぁまぁよかったと思います」
 昨季終盤の2016年12月末頃から、筋量アップにチャレンジした。試合が続くと81キロにまで落ち込むところ、オフに取り組むようなウェイトトレーニングに着手した。松島の現在の公式サイズは身長178センチ、体重88キロと、昨季トップリーグの公式記録より1キロ増。もっとも見た目上は、「夏は暑いので少し落ちて、86キロぐらいになった」という開幕前の状態でも上半身が隆起していた。
 肉体改造に踏み出した当時は、2月に始まる国際リーグのスーパーラグビーを見据えていた。
 日本のサンウルブズの一員として通算3季連続(以前はワラターズ、レベルズに在籍)で同リーグへ挑むタフな日程下でも、高いパフォーマンスを発揮したかった。持ち味のキレを維持しながらも、強靭な外国人勢とのコンタクト合戦に負けたくなかったのだ。
 その効果が現れた一例が、リコー戦でのトライシーンだった。対するWTBの小松大祐プレイングアドバイザーは「松島君、前よりも強くなった感じがします」と証言する。仮に松島が増量した情報を知らなかったとしても、いくつかのマッチアップから容易に想像できた。
「ちょっと、体重増えましたよね?」
 サントリーで就任2年目の沢木敬介監督は、国の至宝となりつつある24歳を高く評価。ただ一方で、体調管理の面でのケアは不可欠だと言う。
「彼は調子がいい。(その調子に)身体の方がついていかないような感じ。そこをケアしながらやっていきたいです」
 事実、指揮官は、18日の開幕節で先発させた松島を前半終了時に退けた。キヤノンに32−5で勝ったこの日の決断を、「足が速すぎるんで引っ込めました」と振り返ったものだ。
 確認を求められた当の本人は、あれは自ら申し出ての交代劇だったと言った。その時は筋肉の違和感を覚えていたと明かし、こう述懐したのだ。
「あのまま続けていたら悪化するなというのが自分のなかにあったので、早めに言いました。怪我をしちゃうと、4週間ほどアウトすることになる。しっかりと、自分で判断しないといけない」
 チームも自分も困る長期離脱を予防すべく、英断を下したのである。その延長線上で、リコー戦では「きょうはフィジカルを安定させたかったので、(長い距離を)速く走るというより、アジリティ(一歩、一歩の鋭さ)を重視しました」とフル出場を果たしたのである。
 9月2日は、秩父宮でヤマハとぶつかる。昨季首位争いを演じた相手陣営には、長らく日本代表として活躍したFBの五郎丸歩が2シーズンぶりに復帰。ファンやメディアは松島との直接対決に注目している。
 
 喧噪のさなか、チャンピオンチームのFBは「自分たちのレベルを図れる機会。ここでいかにスマートにラグビーをやるかが、僕たちの課題です」とチーム対チームの対戦構図を分析する。
「自分の調子がいい時は、周りが見えている時と身体が動いている時なので」
 自分の状態、相手の状態、自分と相手との相関関係。すべてを冷静に見つめ、ベストチョイスを下したい。
(文:向 風見也)
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