入社7年目。昨季は12試合に出場した。181cm、106kg。(撮影/多羅正崇)
キャプテンのCTB立川理道が、日本代表やサンウルブズで奮闘している間、チームの留守を預かっていた。
クボタスピアーズで7年目になるHO杉本博昭。
FW第3列として各世代の日本代表(高校、U19、U20)に選ばれてきた28歳は、スクラムの要に転向してふたたび花開き、今季クボタの副キャプテンに就任した。
「僕が言えることは言って、ハルミチ(立川)の負担を軽減させたいというのはあります」
チームの後輩であるCTB立川は、日本代表、サンウルブズでも共同キャプテンを務めてきた。
3つのチームを統率する後輩に、HO杉本は想いを寄せる。
中学、高校、大学でキャプテンを務め、自身も困難にぶつかった過去があるからだ。
「中学校の時はラグビーが大嫌いだったんですよ。兄貴が二人いて、見比べられていて」
ラグビー一家の三男坊。大阪・東生野中学では、長男の剛章(元三菱重工相模原)、次男の晃一(トヨタ自動車)との比較に苦しんだ。
しかしキャプテンを任され、チームを大阪市優勝、大阪府3位に導くと、指導を受けた「芦高先生」から嬉しい言葉をもらった。
「『このチーム作り上げたのは、お前やんな』と。言われた時は嬉しかったですね」
高校でも強いチームを作り上げてみせる――。
強豪・大阪工大高(現 常翔学園)でもキャプテンを任され、意気込んだ。
しかし味わったのは深い苦悩だった。
「後ろを見ずに突っ走っていました。『やらないとあかん』という責任感が出てしまって、周りが見えていませんでした。『もっと強くしな、強くしな』と。強く当たった時もあります」
強いリーダーシップと共に、繊細さも持ち合わせている。思い悩むあまり、生まれて初めて円形脱毛症を経験した。
全国大会では東福岡(福岡)に敗れたものの、全国ベスト4。しかし色濃く残るのは後悔の念だ。
「全国ベスト4でしたけど、僕がもっと思考が広かったら、もっと良いラグビーができたんちゃうかなと思います」
転機は大学時代に訪れた。
明治大学の同期は、田村優(キヤノン)や三村勇飛丸(ヤマハ発動機)など個性派揃い。この個性ある選手たちをまとめたら、どれほど強くなるのか――。
杉本は個性派集団のキャプテンになると、それまでの方法をガラリと変えた。
「個性を活かしながらサポートしました。みんなが発言していました。で、最終判断は僕がやったり。こういうまとめ方があんねんな、というのは明治の時に勉強しました。だからクボタでもそうしたいなと」
だから今春、留守を預かる立場になったHO杉本は、ミーティングでクボタのメンバーに言った。
「最初のミーティングの時に、『僕が選ばれているけど、みんながリーダーとなってやろう。そうしないとチームは強くならないし、ミスした時にすぐ修正できないから』と言いました」
幸いなことに、HO杉本には協力し合える仲間がいた。
チームの同期とは、年に一回かならず旅行に行くほど仲が良い。そのうちの一人、中学時代のオール大阪以来の付き合いで、長年チームの主力として活躍するNO8四至本侑城は、自宅まで近所だ。
あとから住み始めたのはHO杉本の方で、NO8四至本は「ヒロ(杉本)が引っ付いてきたみたいな感じですね!」と豪快に笑う。
しかしHO杉本の方針に話が及ぶと、サンウルブズ、日本代表入りも目指すNO8の表情は締まった。
「ヒロ(杉本)は人の話を聞いてくれますし、練習中もポジティブです。僕も自分の意見をどんどん言って、サポートしていきたいというのはあります」
NO8四至本だけではない。今はユニットのリーダーを中心にみんなが積極的に発言をしている。
望んでいた光景だった。
開幕節パナソニックワイルドナイツ戦で見せた高い完成度が評判になっている。
「みんなに言われました、『いいアタックしてるね』とか」(HO杉本)
次戦は8月26日、愛知・パロマ瑞穂ラグビー場でNTTドコモレッドハリケーンズと対戦する。
その先発メンバーが発表され、CTB立川キャプテンは欠場となり、ゲームキャプテンをHO杉本が担うことになった。
もちろん、独りでチームを引っ張るつもりはない。
信頼できるたくさんのリーダー、メンバーたちと共に、春から積み重ねてきたクボタのラグビーを披露するつもりだ。
(文/多羅正崇)