前年度のトップリーグで全勝優勝をしたサントリーのモールは、脅威を増したか。
前半4分の先制シーン。敵陣ゴール前右でのラインアウトを真壁伸弥が確保すると、その脇に入ったFLのツイ ヘンドリックが相手の防御をブロック。モールの進路を開ける。黄色い塊がじりじりと進んだ。最後はラックの連取からHOの中村駿太がインゴールを割った。5−0。
日本代表経験のあるLOの真壁がかねてモールのリーダーとして練習をリード。最近では、元日本代表FWコーチでいまはイングランド代表で同職のスティーブ・ボーズウィックの臨時指導を受けている。
「モールは、自分が核になったら、行けますよ。自画自賛ですが、徹底的にやったので。1つの武器になるよう、頑張っていきたいです」
12−0とリードして迎えた同35分には、新加入のマット・ギタウが魅す。オーストラリア代表103キャップを誇るインサイドCTBは、敵陣ゴール前右中間でパスを受け取ると「自分の前にバックローの選手がいると見えた。彼の外側へ走ろうと思いました」。身軽なBKである自分の前に大きなFWが立つ、「ミスマッチ」の局面を活かす。
「そうすると彼が追いかけてきたので、ダイシの前のスペースが空いたのです。そして、ダイシが素晴らしいボールを出して、ヅルが飛び込んだ」
左斜め前方へ切れ込んだギタウの右脇へ「ダイシ」ことアウトサイドCTBの村田大志が走り寄り、ギタウのパスをもらってゴールライン付近へ。最後は昨季のトライ王で「ヅル」ことWTBの中鶴隆彰がフィニッシュするなどし、スコアを19−0と広げた。
2017年8月18日、東京・秩父宮ラグビー場。キヤノンとの開幕節を32−5で制した。ギタウは続ける。
「スコアと内容は関係なく、試合はフィジカルも激しく、クイック。簡単にはいかなかった。日本に来たばかりのなか、挑戦をしているところ。いろいろな経験ができてよかったです」
もっとも、満足はしていない。今度の快勝劇に就任2年目の沢木敬介監督は「一番の収穫は勝利です。ただ、終わった後のミーティングでは誰も満足していない」。鋭いキックで陣地を獲得したSHの流大主将も、「ラグビーの中身を見ると、これをファイナルでやったら勝っていないと思う」と続ける。やや停滞した攻撃局面を振り返り、日本代表の流はこうも発す。
「前半でキヤノンはバテていた。こちらが動いてスペースを攻められる場面が多々あった。そこでハードワークできず、相手のペースに合わせたのがよくないところです」
接点への寄りが遅れてターンオーバーを許したり、後半26分にはツイが一時退場処分を食らったりと、確かに停滞とも無縁ではなかった。連覇を目指すにあたり、現状に満足してはならない。そのイメージを共有するからこそ、この日の試合内容には納得しきれなかったのだ。
王者になった2012年度、優勝を逃した翌13年度に主将を務めた真壁は、自らの経験をもとに追われる立場の心境を語る。
「気持ちの部分が大事だと思います。私の優勝した翌年は、少しおごりがあったのかもしれないです。『これくらいやっていれば、勝てる』と。そう思った段階で負けじゃないですか。慢心しないことが大事。きょうは前半、スペースをしっかり攻めるラグビーができた。ただ、後半にワークレートを上げなきゃいけないところで…。しっかり、やっていきたい」
25日、同じ秩父宮でリコーとの第2節をおこなう。オープニングゲームで好タッチキックと防御の凸凹を突く走りで魅したSOの小野晃征も、兜の緒を締める。
「去年のプレーも分析されていると思う。去年以上に高いスキルと判断力でチームを上げていかないと。(自身のプレーは)まだこれからなので、10点中3点ぐらいです。今週のパフォーマンスを見直して、リコー戦に臨みたい」
試合を重ねるごとのクオリティアップを目指す。
(文:向 風見也)