ラグビーリパブリック

ラグビーの山も登るでえ コカ・コーラレッドスパークス HO原山光正

2017.08.14
コカ・コーラ期待の2年目、HO原山光正
 原山光正はおもしろい。
 コカ・コーラレッドスパークスのHOは、新人だった昨夏、「登山」を本格的に始めた。
 8月11日が祝日「山の日」になったからではない。衝動が沸き上がる。
「オフで実家に帰った時に、『富士山登山』の広告が目に入りました。イチキュパでした。日本を代表する山ですし、これは登らないといけない、と思いました」
 19800円を払い、京都から1人でツアーに参加する。五合目から登り始めるが、3776メートルの日本の最高峰には至らない。
「ものすっごい嵐になって…。風速は30メートルでした。それでも気合で登ったのですが、八合目でやむなく下山しました」
 樹木が根こそぎもって行かれる強風、低酸素の中、荷物を背負って、足元がめりこむ山道を登る。オフなのに、人生初とも言うべきハードトレ。そして、ご来光は拝めなかった。
 登山に目が行ったのは、好きな旅行の延長だからでもある。
 その資金を得るために、立命館大では、一般学生と同じようにバイトをしまくる。
「夜の9時過ぎに練習が終わるので、急いでごはんを食べて、10時から朝5時までコンビニ。週3日くらいですかねえ。ピザの宅配や不動産屋でもバイトしました」
 作ったお金でフィリピン、マレーシア、グアム、スウェーデン、フィンランドなどを訪れる。ラグビー強豪国はその中にない。
 フィリピンではトラブルに巻き込まれる。
「物価が安いから、なめて30000円しか持っていかなかったんですね。その状態で、『フィリピンはパブだ』とお店に行ったら、ぼったくられて全部なくなりました」
 困り果てて、日本大使館に駆け込む。
「その時、EMBASSYという単語を覚えました。そこでおかんに電話してもらいました」
 母・真智子(愛称マチコ)は大使館員に告げる。
「わかりました。すぐに送金します。その代わり息子がお金を受け取った瞬間、日本に強制送還させて下さい」
 かくして、1泊2日で旅は終わる。
 騒ぎの中でも、オチはしっかりつけた。さすが関西人である。
 つまり、原山はラグビーに集中していなかった。それなのに、大学時代には「ベイビー・トップリーガー」たちとポジションを争う。
 2年上には、日本代表、サンウルブズの庭井祐輔、1年上には?島忍(ともにキヤノン)、1年下には江口晃平(ヤマハ発動機)がいた。その中で、3、4年時の関西リーグでは2年連続して開幕戦先発出場を果たす。
 2014年10月26日の摂南大戦(45−24)ではHOにも関わらず4トライを挙げた。視察した採用担当の西村将充は、この5点の嗅覚とランニング能力に優れた3年生の獲得をチームに進言。現実化する。
「僕はラッキーなんです。たまたま西村さんに見てもらった試合のデキがよかった。その前の天理の試合は調子が悪くて、前半で江口に替えられちゃいました」
 この国では「運も実力のうち」と言う。
 そして、新人の昨年度、原山はクボタとNEC戦の2試合に途中出場する。トップリーグ初出場を果たしてしまった。
 ただし、出場時間は計6分のみ。
「ウルトラマンよりは長く出たけど、カップラーメンを作って食べ終わりません」
 今年はチャンスが巡ってくる。
 昨年度の公式戦15試合で、7試合に先発した平原大敬(ひろたか)が豊田自動織機に移籍した。8試合に先発し、日本代表キャップ9を持つ副将・有田隆平の存在は大きいが、努力次第で出場数を増やすことができる。
 それもあって、ラグビーに没頭する雰囲気が出てきた。
「トレーナーと話をした上で、プル(引く力)をつけようとしています。スクラムは背中の力がより必要なので」
 今では177センチ、110キロの体ながら、「綱登り」ができるようになった。天井からぶら下がった綱を座った状態から、手の力だけで登るトレーニングが、入社時にはまったくできなかった。
 楕円球への専心さえあれば、その成長曲線の上昇は計り知れない。
 8月20日、サニックス戦で幕を開ける今シーズンの個人目標を口にする。
「スタートで出ることです」
 クリアできれば報告したい人がいる。社歴が1年上だった同じ京都出身のSH松島鴻太だ。咋シーズン終了後に退部、家業の自動車販売会社に入った。
 松島にはよく指導を受けた。
「いいかげんなことをしたら、『ここになにしに来たんや』って怒ってくれました。コウタさんに成長を見てもらいたいです」
 コミカルを遺伝させてくれたマチコもスタジアムに呼び寄せたい。
 試合中、トライに向かう原山の横をライン越しに応援の絶叫並走したり、酔っぱらって首脳陣の首を絞めた、という武勇伝を持つ母をよろこばせるのは、息子としてのつとめでもある。まだ、グラウンド上での深紅のジャージー姿を見せてはいない。
 笑いの魅力はたっぷり。これからはプレーで人を引きつけたい。
 潜在能力を開花させれば、4シーズン連続14位と低迷するチームの起爆剤に、十分なりうる。
(文:鎮 勝也)
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