8月7日、都内で国内最高峰トップリーグのプレスカンファレンスがあった。各クラブのファーストジャージィをまとって出席した合計16名のチームリーダーにあって、多くの報道陣に囲まれた1人がトヨタ自動車の姫野和樹チーム主将だ。帝京大を卒業したてのルーキーだった。
過去の主将経験は「高校の頃の東海選抜の時と、20歳以下日本代表での1試合だけ」のみという新入社員が、ジェイク・ホワイト新監督に抜擢された。話題を集めるには十分だったのだ。指名理由について、当の本人はこう聞いたという。
「トヨタ自動車のチャレンジの象徴に。また、2019年のワールドカップ日本大会に向けて僕がリーダーシップを勉強していい選手に…。そのふたつが、(選出の)理由としてありました」
日本選手権優勝3回という伝統を誇るトヨタ自動車だが、近年は中位に甘んじる。前年度のトップリーグでは、16チーム中8位に終わった。オーストラリア代表57キャップのワイクリフ・パールーら大物外国人、北川俊澄ら日本代表選出経験者など豪華なFW陣を擁しながら、7勝8敗と負け越した。
クラブの変革を期すのが、ホワイト新監督である。2007年のワールドカップフランス大会で南アフリカ代表を頂点に導いた新指揮官は、フランスのモンペリエでヘッドコーチをしていた今年5月に一時来日。就任の決まっていたトヨタ自動車の練習風景を見て、やや童顔の若者に白羽の矢を立てた。
「彼は帝京大で4年間、優勝しています。負けを知らない人間が、主将です」
姫野は、トヨタ自動車のおひざ元である愛知県で生まれ育ち、御田中、春日丘高で楕円球を追ってきた。
昨季までに大学選手権を8連覇した帝京大では、度重なる怪我に泣かされた。それでも雌伏期間の肉体強化で、学生ラグビー界屈指の体躯を獲得する。LOのレギュラーに定着した最終学年時は、身長187センチ、体重108キロの巨躯で突進力を示した。
常勝集団を率いる岩出雅之監督は、事あるごとに「姫野の身体、また大きくなっている」と口にしていた。帝京大6連覇時の主将でいまはサントリーで同じ役目を担う流大も、「下級生の頃は僕らが『自分のレベルアップだけに…』と求めていたのもあって、周りを気にするという感じではなく。でも、4年生の時は違いました。僕も何回かグラウンドに行ったのですが、FWを引っ張っている印象でした」。今度の主将就任の礎には、心身両面での成長もあった。
プレスカンファレンスではFLの背番号6のジャージィをまとった姫野が、身振り手ぶりを交えながら落ち着いて話す。
「帝京大の時はずっとLO。帝京大の岩出監督が『LOをやって、自分の足りないものに気付け』と言われ、武者修行でやっていました。仕事量の部分とかで足りないものも見つけられましたし、そのうえでFLになった。経験は生きています。部内での競争も大変ですが、楽しくやれていると思います。主将として考えることは多くあるんですが、自分がやらなくてはいけないことはプレーヤーとして身体を張ること。その軸はぶらしてはいけない」
8月18日、愛知・豊田スタジアムでの開幕節では前年度2位のヤマハを迎え撃つ。元日本代表副将である五郎丸歩の復帰で話題を集める相手に、「チャレンジの象徴」がぶつかる。
(文:向 風見也)