昨シーズンのチームMVPだ。
2016年度のトップリーグで、トヨタ自動車ヴェルブリッツの一員としてリーグ戦全15試合に出場。10試合は左WTBとして、1試合はFBとして、シーズン終盤の2試合はアウトサイドCTBとして先発し、決定的なラインブレイクを何度も披露。
昨シーズン終了後、城戸雄生(きど・ゆうき)は在籍8年目にして、チーム内のシーズンMVPを初めてもらった。
「もともと怪我ばっかりだったので、シーズンを通して出たのは久しぶりでした。期待値が低かったので、それを超えただけだと思います(笑)」
飾らない人柄の30歳は、チームMVPの理由を陽気にそう振り返った。
その甘いマスクからは窺い知れないが、2度にわたる大怪我と闘ってきた。
1度目はチーム3年目の2011年シーズン、第5節近鉄ライナーズ戦でのことだった。
「前にディフェンダーが3人くらいいて、気が付いたら骨折していました。右脚の脛骨(けいこつ)と腓骨(ひこつ)です」
膝下にある2本の支えを同時骨折する重傷だった。
「復帰までに2年近くかかりました。グラウンドには立てていたんですけど、走れなくて」
小学2年生で楕円球に触れ、報徳学園(兵庫)、法政大学と歩んできたラグビー人生を振り返っても、これほどの怪我はなかった。
ようやく実戦復帰を果たした頃、2度目の悪夢が城戸を襲う。
前十字靭帯を切った。今度は左膝だった。
「ちょうど右脚が回復してきて、調子が良くなってきたなという時でした。6年目の夏だったと思います。シーズン前、網走でのトレーニング中でした」
懸命のリハビリの末、トップリーグ復帰は翌年になった。
しかし迎えた2015年シーズンは、怪我の影響もあって不本意な結果に終わる。
「スピードが全然出なくて、気合で出場していました。たいしてプレーもできなくて、試合に出たのは3試合くらいです」
そうして迎えた2016年シーズン。ユーティリティ性溢れる突破役は輝きを放った。
そんな2度の大怪我を乗り越えた城戸へ、チームは賛辞も込めてMVPを贈ったのだった。
ベテランの域に入って大きな成果を残した城戸だが、8月18日に開幕を迎える2017−2018シーズンは、例年以上の厳しいレギュラー争いにさらされているという。
「今年はバックスリーがすごく良くて。今年入ったヘンリー ジェイミー。小原政佑もスピードがあって調子が良いですし、オリンピアンの彦坂(匡克)もいますし」
セブンズ男子日本代表歴を持つWTBヘンリー。3年目のWTB小原。リオオリンピックで躍動したWTB彦坂。ほかにもライバルはたくさんいる。
ジェイク・ホワイト新監督を迎えての新シーズンには、ワクワクしている。
それだけに今年も持ち味であるボールキャリー、そして一歩でも前へ出るレッグドライブを、一試合でも多く披露したい。
「これまで、チームとしてのルールがあった部分となかった部分がありました。今年は、なかった部分にしっかりとしたルールができてきました。これからどんどん良くなってくると思います」
チームにも自分にも、期待している。
目前に控える新シーズンでチャンスを与えられれば、今では勲章となった両脚をかいて、一歩でも前へ出るつもりでいる。
(文:多羅正崇)