キヤノンの新顔きっての注目株である2人は、21−21のスコアで迎えた後半10分から出場。初陣を飾る。
8月5日、本拠地である東京・キヤノンスポーツパーク。スーパーラグビー(国際リーグ)のサンウルブズでもプレーしたエドワード・カークと田村優が、加入後初の実戦に臨んだ。
リコーとの練習試合を36−21で制し、8月18日に開幕する国内最高峰トップリーグへ弾みをつけた。
大きな拍手に包まれて登場の田村は、前所属先のNEC時代と同様にSOに入る。大声での指示で、攻防の陣形を整えた。チームメイトで主将経験のある橋野皓介から「ゲームの綾を知っているというか、ここ、というところでいいプレーをしてくれる」と言われるように、悪い流れを断つチョークタックル、相手の乱れを突くハイパントでも存在感を発揮した。
スーパーラグビーのリーグ戦を7月中旬に終えてから初の実戦に、好感触をつかんだようだった。
「久しぶりの試合で楽しかったし、皆も自信を持ってやっていたのがよかったと思います」
NO8に入ったカークは、再三、接点上の相手ボールへ絡む。登場間もない頃に自陣ゴールライン付近で、劣勢のスクラムから攻められた後半21分には同22メートル線付近で、それぞれ相手のノット・リリース・ザ・ボールの反則(寝たまま球を手放さないこと)を誘う。得意技でピンチを脱し、以後のトライラッシュを陰からおぜん立てした。
サンウルブズで共同主将を務めたカークは、母国オーストラリアで結婚したばかり。昨季来日して以来の悲願だったトップリーグ挑戦へ、高揚感を抱く。
「トライアルゲームではありますが、私にとっては初めてのキヤノンでの試合でした。いい雰囲気のもとでプレーできました。長いスーパーラグビーを戦って、母国に帰って結婚をして、ここへ戻ってきて、トップリーグを戦える。素晴らしいことです」
チームは2012年のトップリーグ参戦から少しずつ順位を上げるも、前年度は16チーム中6位から7位に順位を落とした。オフには元ニュージーランド代表FL/NO8のアダム・トムソンや南アフリカ代表経験があるFBのウィリー・ルルーら、多くの主力格を放出。グラント・バッシュフォード新ヘッドコーチのもと、再起を図っている。
新陳代謝が求められるなか、合流から2週間の田村とカークはグラウンド内外で存在感を発揮する。
新人FLの田中真一は、フォワード第3列(FL、NO8)だけでおこなうセッション時にカークから肉弾戦にまつわるアドバイスをもらうという。7人制オーストラリア代表経験のあるカークのボールへの絡みに「リアクションが速く、ブレイクダウンに入るか入らないかの見極めがいい」と感嘆。「スキルも高く、学べることは多い。一緒にプレーできる機会を大切にして、いいプレーをどんどん盗んでいきたいです」と続ける。
日本代表45キャップ(テストマッチ=国際真剣勝負への出場数)を持つ田村については、橋野がこう表現する。
「コミュニケーション能力がある。周りを動かせる。まだ一緒にプレーして2週間ですけど、2週間でここまでフィットできるのはすごい」
18日、東京・秩父宮ラグビー場では、昨季王者のサントリーと激突する。田村は「(7月26日の)ヤマハ戦前は準備がだめだった。それははっきりと皆に言いました。そういうところで遠慮するつもりはないです」と、早くも中軸の風情を醸す。「ここからサントリーに勝てるマインドにしていく。それだけです」と、自信を植え付けにかかる。
「まずはここでベストを出すことしか考えていないですね。フレッシュな気持ちでラグビーができるチャンスなので。試合に出たいですし、そこでチームのためにいいパフォーマンスがしたい」
カークは、1試合に最大2人まで同時出場できる外国人枠のなかで出場機会をうかがう。「試合に出る、出ないに関わらず、毎週、毎週、機会を得られればベストを尽くすだけです」と忠誠を誓った。
「チームのためになるベストのポジションで、ベストを尽くすだけです。極論を言えば、そのポジションがセカンドチームの試合であっても、そこでベストを尽くすだけです」
試合後のグラウンドであったファンサービスの時間では、写真撮影のための長蛇の列を作った2人。映える場所は、インスタグラムばかりではない。
(文:向 風見也)
リコーとの練習試合に出場したエドワード・カーク(撮影:松本かおり)