猛暑の人工芝グラウンドで、肉弾戦の動きをチェックする地味なトレーニングを繰り返す。その合間、小澤大が周りの後輩選手にこんな内容の声をかけた。
「暑いけど、上を向いて、コミュニケーションを取っていこう」
7月25日、東京・味の素スタジアム アミノバイタルフィールドでのことだ。
この日は男子7人制日本代表候補が、セブンズ・デベロップメント・スコッドとしてキャンプに臨んでいた。2020年のオリンピック東京大会を見据え、本番のウォーミングアップ会場と同じ場所で練習を実施。国際経験の浅い大学生なども含まれる隊列にあって、同代表歴の長い28歳はこんな思いで声をかけたのだ。
「暑いうえに、疲れてくると、なかなかコミュニケーションが取れなくなっていた。ただ、何でもいいので意識して声を出してくれれば、その選手が何をしたいか、何を欲しているかが(周りの選手も)わかるようになる。そのために、もっと声は出していかなくちゃいけないな、と」
身長183センチ、体重89キロ。15人制ではWTBやFBとして空中戦や1対1で強さを発揮する。7人制ではその資質をFWの位置で活かす。
日本ラグビー界の各企業チームが15人制のトップリーグに注力するため、7人制代表は長らく選手の招集に苦労してきた。そんな状況下、小澤は所属するトヨタ自動車へ7人制代表への思いを吐露。チームの夏合宿中だったこの時のキャンプへも、確固たる思いを持って参加していた。
「日本代表なので、呼ばれている以上はそこで力を出していきたい。そこで磨いてきたスキルをトヨタ自動車で発揮できるようにかんばります…。そう伝えています。いまのところは、ここへ来させていただいている。1回、1回、しっかりとチームを引っ張っていきたいです」
その背景には、東京五輪出場への意欲がある。
7人制ラグビーが初めて採用された2016年のリオデジャネイロ五輪時は、日本代表の候補選手になりながら大会前にメンバーから落選している。
苦楽をともにしてきたほかの選手は、本番でニュージーランド代表を破るなどして4位に入賞。その様子を日本で観た時の複雑な感情に、小澤は突き動かされている。
「落選してすごく悔しかった。正直に言うと、あの場にいたかったです。(リオ五輪のメンバーが)すごい結果を残してくれたので、次の東京ではそれ以上のことが求められてくる…。自分の努力次第で、そこ(東京五輪のメンバーの座)をつかんでいきたいです」
7人制日本代表は現在、来年7月にあるラグビーワールドカップ・セブンズ2018(アメリカ・サンフランシスコ)の予選を兼ねたアジアラグビーセブンズシリーズ2017を見据えている。
9月に香港(1、2日)、韓国(23、24日)、10月にスリランカ(14、15日)でおこなわれるこのシリーズに向け、8月にはオーストラリア・マッカイ(12〜19日)、山梨(24〜30日)で合宿を張る。
なかでも意味深いのは、オーストラリア代表候補とトレーニングマッチをおこなえるマッカイでの日々だろう。「アジアシリーズの前にこういう経験ができるのは大きい」と話す小澤は、改めて「声」の重要性も語る。
「アジアシリーズの会場は今日のここよりも暑い。暑い時にどれくらいできるか、声を出せるかという部分ついては、もっと慣れていかないと」
まずは、いまの7人制日本代表における存在感を確立させたい。そして31歳で迎える東京五輪では、前回大会時に果たせなかったメダル獲得へ挑む。
(文:向 風見也)