ラグビーリパブリック

オールラウンダーに進化中。近鉄・田淵慎理が描く上昇曲線。

2017.07.28

北海道合宿時、充実した表情の近鉄ライナーズ・田淵慎理(撮影:多羅正崇)

 大好きなラグビーで自分を表現できることが、いま最高に楽しい。
 近鉄ライナーズ3年目で同志社大学出身のFL/NO8田淵慎理が、7月14日、北海道・美幌町柏ヶ丘公園陸上競技場でおこなわれたNECグリーンロケッツとの練習試合に途中出場。
 約10か月にわたるリハビリ期間を経て、北海道での合宿中に実戦復帰した。
 同じく合宿中におこなわれたクボタスピアーズとの練習試合では、先発FLとして80分間プレー。
「クボタ戦はフル出場だったんですよ」
 そう語る24歳は嬉しくてたまらない様子だった。
 昨年のトップリーグ開幕前、2年目の田淵は例年以上に意気込んでいた。
「日本代表の監督が変わると聞いていたので、トップリーグでアピールしようと思っていました。『いったろう』と」
 アクシデントに見舞われたのは、第2節コカ・コーラレッドスパークス戦の終盤。ステップを踏んださいに「ボキッ」という音を聞いたが、骨折ではないと直感した。左ひざ前十字靭帯の断裂だった。
 奈良の桜井ラグビースクールで楕円球に出会い、天理高校、同志社大と進んだが、これほど大きな怪我は人生初。不安に襲われた。
「これまで10か月もかかるような怪我はありませんでした。グラウンドで練習を見守ることが多かったんですけど、『戻れるんかな』という思いがありました」
 しかし人生初の長期リハビリが、進化の転機になった。
 近鉄の飯田力チーフメディカルトレーナーの存在が大きかった。
「リハビリ中、飯田さんに身体の使い方を教えてもらって、プレーが変わりました。ひざを痛めないようなステップも教えてもらい、それが自分に合っていて、吸収できました。走り方も変わって、前よりフィットネスでも走れるようになりました。怪我して悪いことばかりじゃないなと」
 怪我のきっかけともなったステップの踏み方も改良、ランニングフォームも効率的になりフィットネスが向上した。
 身体と向き合う時間があったからこその収穫だった。
 
 休日をラグビー観戦に充てるほどのラグビー好き。リハビリ中は、大好きな海外ラグビーを満喫することもできた。
「(海外ラグビーは)むちゃくちゃ大好きです。テストマッチも全部観ます。高校の時は家で観ることができなかったんですが、大学の時はひたすら見ていましたね。昔はマイケル・フーパー(オーストラリア代表)になりたいと思っていたんですけど、近鉄1年目でピエール・スピース(元南アフリカ代表、元近鉄)に会ったことがきっかけで、いまはキアラン・リード(ニュージーランド代表)のようなオールラウンダーというか、なんでもできるプレイヤーを目指しています」
 密集戦での仕事人タイプから、好守に機能するオールラウンダーへ。
 その願いは早くも実を結びつつある。「ミスター近鉄」ことFL/NO8佐藤幹夫プレイングコーチは、田淵の万能ぶりを評価している。
「フィジカルも強いですし、走れますし、ラグビーも良く知っています。田淵はなんでもできますよ」
 
 近鉄・生駒駅の駅員として、午前7時30分に出社する日々を送りながら、桜のジャージーを夢見ている。
 身長179センチ、体重100キロの田淵が意識するのは、やはり同世代の日本代表選手だ。
「同世代のバックローとして、パナソニックの布巻(峻介)選手や、リコーの松橋(周平)選手は意識しています」
 8月18日開幕の新シーズンで、進化した自分を存分に表現したい。成長著しい24歳は、未来への上昇曲線を生駒の空に思い描いている。
(文:多羅正崇)
Exit mobile version