当連載、しばらく時間が空いてしまいました。
実は、何度か記事をまとめかけたのですが、やはりウィンドウマンス後の初戦でヒト・コミュニケーションズ サンウルブズがライオンズに対して7−94という大敗を喫したことで、何を書いても言い訳になってしまうのと、我々マネージメントサイドも同じチームとして全力を尽くすという気持ちから、沈黙させていただきました。
そして、ご存じのとおり、サンウルブズは7月15日におこなわれた今季最終戦で会心のパフォーマンスを見せて、強豪ブルーズに48−21で快勝しました。
ご心配をおかけしたファンのみなさんにも、少しは恩返しができたのではないかと思っています。
前述のライオンズ戦、そして80分間ファイティングスピリットは見せたものの、50点以上の失点を喫しての敗戦となったストーマーズ戦という苦しい南アフリカ遠征を終え、今季最終戦を前にした運営スタッフとのミーティングで言ったのは、「チームだけが頑張ればいいわけではない。一番苦しいのは選手とチームスタッフ。どうサポートできるか全員で考えよう」ということ。
サンウルブズのビジネスを取り仕切る運営サイドの人間もよくわかってくれて、一緒に戦い抜いてくれました。
ただ、一度、逆風が吹き始めると、何をやってもうまくいかない面があるのも確かでして……。スタッフは最終戦を盛り上げるため、イベント関連などさまざまな施策を講じようと努力したのですが、正直言えばなかなかうまくいかない面も多かった。
その一方で、ファンのみなさんの「熱」はそうした厳しい状況にもかかわらず熱いまま、いや、そういう厳しい状況だからこそ余計にヒートアップしている感じもありました。
最終的にブルーズ戦では1万2543人の観客の方にいらしていただいたのですが、そのうち約3000席ほどはチームが南アフリカから戻ってきてからの数日間でチケットが売れたものでした。
なかなか結果を出せないチームに対して、直接、叱咤激励をしてやろうというファンの方々の思いもあったかもしれません。世界列強の中で日本チームとして入り込んでチャレンジを続けることに対する日本人特有のシンパシーゆえの行動だった可能性も高いのではないでしょうか。
「おらがチームを最後まで応援しようじゃないか」
厳しい状況の中、そういうファンの方々の熱は間違いなく後押しになりましたし、それがなければ、あの信じられないようなブルーズ戦でのパフォーマンスもなかった。
まさしく、『ライズ・アズ・ワン』。
へこたれているところから這い上がる。
チームスローガンどおり、ファンの方々からの熱い声援を背にしながら、最後の最後にタフなチームへと進化してくれました。
最終的には、突き抜けることに成功したとも思っているのですが、2シーズン目だった今季、サンウルブズをめぐる状況は昨シーズンより厳しいものがあったのも事実です。
中でも、一番苦しい立場であり続けたのがフィロ(ティアティアHC)だったのは間違いないでしょう。
毎週、メンバーを変えなければいけないような選手起用を余儀なくされました。
すでにスーパーラグビー(SR)レベルにある選手、将来的にSRレベルになりそうな可能性を持つ選手、まだまだその可能性さえわからないような選手……。現時点ではプレースタンダードに差がある選手たちを、週替わりでメンバーを代えながら満遍なく起用していく。
結果に対する責任も負わなければいけないヘッドコーチとしては、非常に厳しい条件を突きつけられての指揮だったのは誰の目にも明らかでしょう。
もちろん、サンウルブズには「日本代表強化のため」という大義がある。ジャパンと連動しながら、代表につながる選手たちのポテンシャルを見極め、そのクォンティティを増やし、クォリティを高めていく。
その作業を続けながら、ファンのみなさんに喜んでもらえるような勝利という結果も残さないといけない。
日本代表強化という、ある種の内部事情もすべて受け止めながら、フィロをはじめとするチームスタッフは本当に頑張ってくれた。
あの素晴らしい内容で有終の美を飾ってくれたブルーズ戦の内容こそが、サンウルブズというチームの今季の総括であり、フィロをはじめとするチームスタッフ、そして選手たちが成し遂げた素晴らしいアチーブメントだったと思います。
■トップリーグも「世界最高峰」を目指すならプロフェッショナルな運営組織化は必須
今回のブルーズ戦勝利の後、私なりにSNSなどでのラグビーファンの反応をチェックしてみたのですが、間違いなく言えることは、当たり前ですが、海外での反響が大きかったということ。
ご承知のとおり、ブルーズは過去3度、スーパーラグビーを制した経験を持つニュージーランドの強豪チームです。多くのオールブラックスを抱え、わずか1か月前にはもうひとつのライオンズ(ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ=6、7月にNZ遠征を敢行)を破ってもいた。
そんな真の強豪チームに勝利したのですから、そのニュースはある意味、ブルーズがライオンズに勝った時よりも世界のラグビーファンに与える衝撃としては大きかったかもしれません。
ことにラグビー王国のニュージーランドにおいては、ジャパンがワールドカップで南アフリカを破った時に匹敵するようなインパクトだったのではないかと言ったら言い過ぎでしょうか。
もちろん、その一方でブルーズ戦の歓喜のわずか2週間前にはヨハネスブルグで歴史的大敗を喫したことも忘れてはいけないし、大きな負のイメージを世界に発信することになってしまったのも事実です。
いま我々がやらなければいけないことはブルーズ戦勝利に浮かれることなく、今シーズンのレビューをしっかりするということ(もちろん、すでに作業は進められています)。
個人的にも、中でもライオンズ戦も含めた南アフリカ遠征のレビューはしっかりやらないとけないという思いが強くありました。
世界一の移動距離に代表されるようなシビアなプロセスのことも含めて、90点以上を取られての負けには意味があるし、それを価値のある敗戦にしなくてはいけない。エクスキューズではなく、前に進むためにです。
私自身のサイレントの意味はそこにもあったわけです。
海外からの反響を見てもわかるとおり、サンウルブズは単独のラグビー集団としては間違いなく世界から最も注目されている日本のチームです。
ブルーズ戦での素晴らしい勝利もあって、2シーズン目の今季の終わりをポジティブな発信をするかたちで終えることができました。
それは、フィロが「世界一」と評したファンの方々に支えられたものだったことは繰り返し述べてきたとおりですし、「世界での勝利」を望むファンの方々の期待にも少しは応えることができた。
サンウルブズと支えてくれているファンが証明しているように、日本ラグビー界も代表レベルを離れても、世界に向かって歩を進めていくべき時代を迎えていることは確かでしょう。
ブルーズに勝った後のファンの方々の反応を見ても、その流れをせき止めることができないと確信してもいます。
少々時間が空いてしまいましたが、前回触れたトップリーグを中心とする日本国内のシーズンストラクチャーの変更に関しても、方向性としてはその流れを汲むものにしなくてはいけない。
次回のこの連載記事では、サンウルブズに止まらずに、トップリーグ勢が世界と戦っていく流れをどうつくっていくべきなのか、より具体的に方向性を示そうと思います。
前回から今回の間隔が空いてしまったお詫びではないですが、次回分はすぐに日の目を見るかたちにするつもりですので、ご期待ください。
サンウルブズとして2シーズンをスーパーラグビーという世界最高峰リーグで戦い実感したことでもありますが、世界と戦っていくためには運営組織自体も高度なプロフェッショナル集団になる必要があります。
トップリーグも「日本最高峰」から「世界最高峰」を目指すのであれば、運営組織自体をグローバル化に耐えうるプロ機構にすることからはじめなければならない――それは自明の理でしょう。
上野氏とブルーズのパーソンズ ゲームキャプテン(撮影:出村謙知)
<プロフィール>
上野裕一(うえの ゆういち)
ビジョンは I contribute to the world peace through the development of rugby.
1961年、山梨県出身。県立日川高校、日本体育大学出身。現役時代のポジションはSO。
同大大学院終了。オタゴ大客員研究員。流通経済大教授、同大ラグビー部監督、同CEOなどを歴任後、現在は同大学長補佐。在任中に弘前大学大学院医学研究科にて医学博士取得。
一般社団法人 ジャパンエスアール会長。アジア地域出身者では2人しかいないワールドラグビー「マスタートレーナー」(指導者養成者としての最高資格)も有する。
『ラグビー観戦メソッド 3つの遊びでスッキリわかる』(叢文社)など著書、共著、監修本など多数。