試合前に森秀胤監督(中央のタンクトップ)から注意を受ける東京高校のフィフティーン。
背番号5が白鳥大城主将。
7月20日、「2017年度 御所ラグビーフェスティバル」が始まった。
会場となる奈良県御所市には東は新潟、西は長崎と日本中から35の高校が集まる。
主催する御所実を中心に20分1本勝負の試合が1週間、延々と繰り広げられる。
紫に細い白ラインが鮮やかな東京高校も、27回目を迎えたフェスティバルに、10年以上も前から参加している。
これまで、全国高校大会出場は12回。昨年度の96回大会は2回目のBシードに推され、部史上最高のベスト8に進んだ。
監督の森秀胤(ひでつぐ)は今年55歳。赤銅色に日焼けした中で光る大きな黒い瞳が特徴だ。
わざわざ西下する理由を説明する。
「関東と比べて、関西はラグビーの速さが違う。ボールを動かす速さですね。それを持つのは関東では桐蔭学園しかありません。ここでそれを体験できる。自分たちにとっては、とても大きいことなのです」
森の言葉は成績に裏打ちされる。
過去20回の全国大会で関東勢の優勝は2回のみ。77回大会の國學院久我山、90回大会の桐蔭学園(東福岡との同点両校優勝)。残り13回は東海大仰星などの関西勢、6回は東福岡と計19回は西日本のチームが占める。
学校のある東京・大田区から奈良・御所までの距離は約500キロ。車で6時間。泊りを要するため、遠征費用もかかる。
森はそのデメリットに答える。
「確かにマイクロバスの運転はめちゃめちゃしんどいです。でも、OBなんかもいてくれますし。それに、費用と言っても1泊で3000円くらいしかかかりません」
御所実監督・竹田寛行の尽力で、寝所は学校のセミナーハウスなどを使え、朝夕の食事は同校の保護者やOBが調理したものをいただく。森が「素晴らしい」と称える2歳上の指導者から恩恵を受ける。
今年は特に、奈良南部にある街での学びが必要だ。
レギュラー13人が卒業で抜け、全国大会出場そのものが危ぶまれているからだ。
1月の都新人戦は、準々決勝で森の母校でもある目黒学院に12−35で完敗する。
続く5月の都春季大会は、準決勝で國學院久我山に5−37と大敗した。
早稲田実を40−35で振り切り、東京3位の座は確保したが、全国大会の枠は2つ。2年連続出場のためには、この晩秋、東京2位の國學院久我山を倒さなければならない。
森は言う。
「今年きついことは、わかっています。それを打破するために関西に来ました。しんどい中で勝ってこそ、意義があると思います」
猛練習の日本体育大、そして球際で勝負するFL出身だけに、闘志は人一倍ある。
その状況下で主将に選ばれたのはHO、FLをこなす白鳥大城(だいき)だ。
3年生の白鳥は、昨年度の全国大会登録メンバー25人に入っていない。
「彼は今年、試合に出られないキャプテンになるかもしれません。でも、ものすごくいい男なんです。試合会場のゴミを1人で拾ったりするんですよ」
森が白鳥にチームを任せるところに、「結束による前線突破」の狙いが感じられる。
白鳥は中学時代、野球部だった。進路を考えた時、担任からラグビーを勧められた。3年の夏休みにラグビー体験に参加した。
「楽しかったんです。森先生も『やれよ』って言ってくれました」
同期は27人。そのうち初心者は3人のみ。
「みんな優しくて、フレンドリーでした。『こうしろよ』って教えてくれました」
79人の部員の先頭に立つ白鳥は、チームへの感謝を持ちながらも、自分へのもどかしさも感じている。
「私生活や人間的なところは評価されてうれしいですけど、ラグビーになると去年も出ていないし、なかなかチームを引っ張れません」
そんな中で、御所実をはじめ、東海大仰星、大阪桐蔭、京都成章など全国大会4強以上の戦績を残す関西チームとの繰り返しの戦いは、森が話すように得るものが大きい。
白鳥は22日の大阪朝高との試合にLOで出場した。トライ数は0−0。大阪を代表するチームと引き分ける。
「自滅さえなければ、強いチームでも相手になる。そういう感じはしてきました。自滅につながるミスも減らせつつはあります」
ラグビーマガジン編集部の高校担当である福田達は断言する。
「東京高はここから一気に来るよ。夏を超えてから強くなる」
福田は早稲田大出身。ヤマハ発動機監督・清宮克幸と同期で、4年時には大学選手権優勝(1989年度)を果たしている。長年、ラグビーを見続け、その目は確かだ。
福田の見立て通り、秋までに急成長をしたい。そのために、伝統のシャローディフェンスとモールを関西で磨いてゆく。
(文:鎮 勝也)