さまざまな工夫とひたむきさは、確かに大舞台での結果につながった。
7月17日まで東京・江戸川区陸上競技場などで開催された全国高校7人制大会アシックスカップ。出場48校で唯一、全国高校大会(花園)への出場歴がない大分東明は、カップ(予選リーグ1位)トーナメントで初めてベスト8にまで進んだ。
6月の全九州大会で長崎北陽台に4点差と肉薄する好勝負をし、一部には校名が知れ渡っていた。白田誠明(しろた・のぶあき)監督(41)は、初出場でプレート(2位)トーナメントに回った昨年を「雰囲気を肌で感じるだけだった」と振り返る。だが、大分舞鶴に初めて勝って県代表を勝ち取った2度目の今大会は「勝ちに来た」と自信を持って臨んだ。
予選リーグは青森・三本木農に41−0、富山・高岡第一に36−12で快勝。カップトーナメント初戦は花園優勝経験もある愛知・西陵を33−10で破った。4強入りを懸けた京都成章戦は7−24で敗れたが、大会を通じて鮮やかな試合運びが目立った。
15人制でも要のCTB佐藤咲人(3年)、セブンズではFWに入るCTB長野剛吉主将(3年)らが切れのあるラインブレイクで勢いをつくり、ディフェンスの方針も徹底されていた。「相手は外国でうちは日本代表と思えばいい」と白田監督。ジャパンやサンウルブズの戦いもお手本に、外から内に向かって思い切って詰めるタックルは効果的だった。
チームの売りは柔軟性。監督と溝口健太(27)井餘田智(26)両コーチの若い指導陣は試行錯誤の中、つながりを辿って外部にもコーチングを依頼するなど、積極的に情報を取り込んできた。チームの練習用ジャージーには、トップリーグ・クボタのコーチ陣に指導してもらった際の憧れから、一角獣のロゴが躍る。
「ラグビーに正解はない。実績がないから、失敗を繰り返してもいろいろ試せるのがうちの強み」と白田監督は言う。授けた戦術について「何かちょっと違ったか?」と選手に聞けば「ダメでしたね」と即答される。そんな風通しの良い試合後の団らんに、モットーとする「素直・謙虚・明るさ」が表れる。
毎日の練習は集中力の持続を考慮し2時間半と短い。おとなしい選手ばかりだが、日々オールアウトしなれば足りないという意識は刷り込まれる。
誇れる文化もできた。選手主体のスキル練習だ。選手52人のうち30人ほどの中学ラグビー経験者が未経験者に、上級生は下級生に技術を伝えていく。「教える側も成長できる。取り組む姿勢をみんなで見ているからこそ、下手でも不器用でも頑張っているやつは必ず認められる」。監督はそう言って目を細めた。
県内で最も大規模な学園だ。大分市の中心部に位置する生徒数約1900人の私立高校。普通科は特進コースから国公立大学に多数の合格者を出す。Jリーグのユース所属選手の受け入れでも知られ、清武弘嗣、西川周作らが在籍した。駅伝部など全国レベルの部活動がある。
およそ40年前にラグビー部を創ったのは、女子の強豪アルカス熊谷の中西貴則ヘッドコーチの父である現教頭の中西博氏(64)。今大会も観戦し、「こうなるとは全く思っていなかった」と感慨深げに言った。
40年間の大半は人集めに苦労した。県内でも大敗ばかりで、部員数ゼロや同好会に陥ったこともあるという。そんな沈みがちな船に、初めて帆を張る時は来た。中京大出身で、母校の大分舞鶴で12年間コーチを務めた白田監督が2011年に赴任。ほぼ同時期に運動部寮が整ったことも大きかった。
寮生活や進路などの資料を作り、監督らはリクルートに奔走。学校名を告げると鼻で笑われるような時期は続いたが、今では帝京大、日大など有名校に選手を送ったこともあって、有望中学生の入学が増えた。長野主将も福岡から越境入学した一人だ。
昨年の花園予選で初めて決勝進出。15人制では30年以上も予選無敗の絶対王者・大分舞鶴を標的に、まず二番手にはつけた。
「選手間で普段から話します。花園、出たいよなって」。長野主将が真っすぐに言えば、白田監督は「よく自分が生徒の前で花園に出たい、勝ちたいってストレートに言うからな」と嬉しそうに明かした。
柔軟で実直な新鋭。今回のセブンズの成功も、来たる冬、高い壁を越えるための力に変える。