セブンズ南アフリカ代表、ロスコ・スペックマンをステップの師と仰ぐ。(撮影/松本かおり)
サクラのエンブレムを胸に付けた背番号1は鋭く動き続けた。専修大学3年の野口宜裕(のぐち・よしひろ)が2週連続で秩父宮ラグビー場を駆けた。
7月2日におこなわれた『なの花薬局ジャパンセブンズ2017』で優勝したセブンズ・ディベロップメント・スコッド(SDS/セブンズ日本代表候補)。大会後の記者会見時、同チームの指揮を執ったダミアン・カラウナ ヘッドコーチの口から出た若き才能の中に、野口の名前があった。
170センチ、73キロ。サイズはないが、キレがある。鋭いステップで何度も防御ラインを破った。
6月25日、関東大学オールスターゲームでおこなわれた『対抗戦2部×リーグ戦2部』のセブンズ試合でも秩父宮を沸かせた男に光が当たるようになったのは、関東大学リーグ戦セブンズ(4月)での活躍の様子が、代表首脳陣のもとに届けられたのがきっかけだった。まずはゴールデンウイークにおこなわれたSDS活動に参加し、参戦した東日本クラブセブンズ(熊谷)で優勝。そこで得た経験を活かし、先週、この週末と、多くの人が見つめる中で光を放った。
「突然、こんなレベルの高いメンバーの中に入れてもらえて嬉しかった。でも、知識もスキルも何もなかったから最初は戸惑いました。そんな感じだったのですが、経験ある方々がいろいろ教えてくれるのでプレーしやすいですね」
自分の力を周囲が引き出してくれているのを感じる。自ら仕掛ければまわりが呼応してくれる。その感覚が心地いい。活躍の理由はそこにある。
大阪の早稲田摂陵高校でラグビーを始めた。東京出身も早大進学を夢見て同校への入学を志し、その結果、楕円球と出会った。
「寮に住んでいたのですが、ある日、友だちについていったら、そこがラグビー部でした。そして、その日が入部の日だったので…そのまま、僕も入りました」
昨年、後輩たちが花園予選の地区予選決勝に進出したように、着実に力を蓄える同校。当時はまだ、そこまでの充実はなかったけれど、藤森啓介コーチとの出会いがラグビーへの興味を深くさせた。理論家で情熱家の若き指導者のコーチングにより、向上心が高まった。
早大進学はならなかったが、専大に進んだことで、またも楕円の出会いに恵まれたのも幸せだった。神奈川県伊勢原で待っていたのは元日本代表で、セブンズ日本代表監督経験者である村田亙監督だった。
「村田さんがいなかったら、いまのような状況になることはなかったと思います」
これまで、ほとんど馴染みのなかったセブンズへ導いてくれた。自身の持ち味を見抜いてくれた。未知なる世界への入り口になってくれた恩人だ。
15人制ではWTBを務める50?走6秒0のスピードスターは、セブンズではSH、スイーパーを務めている。強靱なフィットネスを要求され、高いコミュニケーション能力も必要。1対1の場面でも相手を止めなければならないポジションは難しいけれど、大きなやり甲斐を感じている。
「周囲の人たちと比べると、自分がまだまだそのレベルには遠いことがよく分かります。そんな中でプレーするのはプレッシャーもありますが、ベテランの方々が『思い切ってやれ』と言ってくれるのでなんとかやれている。フィットネスをもっと身に付けないといけないし、まわりが見えていないところがあるので、もっと声をかけ、声を聞かないと。セブンズはひとりでは打開できないので、そのあたりをもっと高めたいと思っています」
この数か月、生活は大きく変わった。
将来の展望も。駆け足で近づいて来た2020年オリンピック出場の夢が、自分の中でどんどん大きくなっている。現在3年生。卒業後の進路はまだ決めていないが、将来、セブンズ専任契約選手になれるとしたら「夢のよう」と話す。
専大ではまだWTBのレギュラーの座を獲得していないが、このペースで経験を積み重ねていけたなら、セブンズでも15人制でも、周囲に頼られる存在に進化していけそうだ。