6月11日、東京・秩父宮ラグビー場。「秩父宮みなとラグビーまつり」の最終日にあって、社会人1年目の日本人アスリートたちがファンを興奮させた。
前年度に国内2冠を達成したサントリーはこの日、国際リーグのスーパーラグビーで優勝経験のあるワラターズ(オーストラリア)と親善試合をおこなった。
外国人選手は来日前で、一部の主力候補は故障や日本代表招集により不在だった。若手主体のオール日本人という登録メンバー25人が、入れ替え自由のルールのもと躍動した。
なかには4人のルーキーも含まれていた。そのため試合後の会見では、新人に関する質問が飛ぶ。就任2年目の沢木敬介監督は、「みんな、想定内です。あれぐらいやるだろうな、と」。極端に簡素な表現につき聞き手の笑いすら誘ったが、確かにそれぞれの素質を評価していた。
「逆に、あれぐらいやってくれないと今シーズン、出られないです。新人も、活躍できるとわかっているからサントリーとして採っているので、まぁ、それなりのプレーはできていたと思います」
その新人の1人であるNO8の桶谷宗汰は公式記録上、7名いたフル出場選手の1人となった。19−21での敗戦を受け「タックルミスが2、3回あって…」と反省も、攻めては得意のランを何度も披露した。防御に捕まれても前に出て、攻撃を滑らかにさせた。
「4月からこの日のために練習していた。緊張する部分もあったのですけど、この先の試合にも出してもらえるようにアピールを、アピールを、と考えていました。その時、その時の自分のできることを探し、それをする際には激しさをもってやろう、と。真正面で当たると体格差で返されるかなと思っていたので、まずはしっかり(自分の身体を相手の触れにくい位置に)ずらしながら、ボールを獲られないように低く、強く、早くキャリーしようと意識しました」
身長178センチ、体重95キロ。第一線で働くNO8にあっては決して大柄ではないが、攻撃的な資質を長所に明大で主将を務めた。就職先をサントリーに決めたのは、タフな指揮官の影響だった。
沢木監督と桶谷は、20歳以下(U20)日本代表時代にヘッドコーチと選手の関係だった。激しいゲキが飛ぶ練習へ挑み続け、ジュニアワールドラグビートロフィー(現 ワールドラグビーU20トロフィー)で優勝。成功までの道のりを通し、桶谷は心をつかまれた。
「サントリーには超アタッキングラグビーというイメージがあって、自分もワークレート(仕事量)を売りにしてきた。自分とチームのやりたいことが一致するのはサントリーしかないと思って、選びました。あとは、沢木さんの影響もかなり大きいです。めちゃくちゃきつい練習をして、大会を勝ったという経験…。ラグビーは頭を使うスポーツだと教えられたこと…。この人についていけば、もっとラグビーがうまくなると実感しました」
実は他の新加入組も、U20日本代表選出時の沢木監督との交流を受けサントリー入りを決めたと口を揃えている。ワラターズ戦でのフレッシュマンの働きには、指導を信じる者の成長力がにじんでいたのだ。
沢木監督の厳格さをにじませるクールな話しぶりは、テレビの勝利監督インタビューなどでも知られている。日々のセッションでは、圧力下における激しさやプレーの正確性などが常に問われている。それを桶谷は「理不尽な厳しさではなく、勝つために必要な筋の通った厳しさ」と捉える。
「チャレンジした結果のミスなら何も言われない。…2回同じことをしたらむちゃくちゃ怖いですけど!」
サントリーのFW第3列(NO8、FLの総称)には、元オーストラリア代表のジョージ・スミスや日本代表のツイ ヘンドリックら名手がひしめく。強豪クラブの防御網にチャレンジし続けた桶谷は、今後の定位置争いへも決意を込めた。
「外国人選手のいるポジションで、高いワークレート、タックル成功率、頭を突っ込んでいく激しさを持つ。そうすれば、ジャージィはつかめると思うんです」
2連覇に向け新陳代謝も期すディフェンディングチャンピオンにあって、カンフル剤となるか。
(文:向 風見也)