積極的に動いたサントリーSH大越元気。(撮影/松本かおり)
もらえた出番はたったの7分間。だからこそサントリーの新人、大越元気はこう意を決していた。
「出る時間は短かった。そのなかでいかにアグレッシブに自分をアピールできるか…」
6月3日、東京・キヤノンスポーツパーク。キヤノンとの練習試合で、後半34分にグラウンドへ出た。ゲーム主将を務めた日和佐篤に代わって、SHの位置に入る。ロスタイム突入後、そのエナジーを発散する。
自陣22メートルエリア内でペナルティーキックを得るや、速攻。ぐんぐん推進する。
間もなく、対するアライモアナ・モツアプアカに妨害される。身長192センチ、体重135キロの巨漢選手のタックルは、身長162センチ、体重68キロの大越の首元あたりを直撃。場内は騒然となり、レフリーが「危険なタックル」と判定を下す。
怪我も懸念された大越だが、ひるまなかった。
「(タックルが)入った瞬間、すぐに行こうと思いました」
笛の音を聞いたころにはすっくと起き上がり、再び攻め上がったのである。
後退するキヤノンは、さらに反則を重ねる。ここでも期待の新人がランを仕掛けるなどし、サントリーは大きく陣地を挽回した。
限られた出場時間で、何とか持ち前の機動力をアピールした大越。35-21で勝利し、あの場面を振り返った。
「あれでアピールできたかはわからないですが…行っちゃいました。ゲームテーマのひとつにも、どんどんクイックで行こうというものがあったので」
2012年度の全国高校ラグビー大会準々決勝では、茨城・茗溪学園高の主将として当時2連覇中の東福岡高を撃破。同志社大ではラストイヤーに、11シーズンぶりに全国大学選手権の4強入りを果たしている。スピーディーなパスさばきを真骨頂とし、昨季は次なるステージを見据えてハイパントの技術を磨いてきた。
門を叩いたサントリーは、前年度の国内タイトルを総なめにした強豪だ。SHのポジションには、流大主将、日本代表の経験がある日和佐と有力株が揃う。先輩たちから学ぶことは多いと、大越は言う。
「身近に上手いSHがいるなか、高いレベルで練習できていて…。終わってからも毎日、毎日、その日のレビューをしてくれている。FWとのコミュニケーション、もっと落ち着いて(攻めを)オーガナイズすべきということ、ディフェンスの連携の部分などについて、教わっています。1日、1日、成長を実感する日々が続いています」
厳しい場所へ飛び込んだのは、指揮官の存在があったからだ。
自身が入っていた2013年、2014年の20歳(U20)以下日本代表を率いていた沢木敬介が、昨季サントリーの監督に就任した。
鋭い視線で選手を見つめる沢木のもとで、もう一度プレーしたい…。他にもオファーを受けていたであろう大越は、その一心で進路を決めたという。
「バーッと怒られても、それで終わりじゃない。沢木さんは、その後をしっかりと見てくれている。厳しく言う時もあるんですけど、僕は、そこに愛があると感じています」
この日はNO8の桶谷宗汰 、WTBの松井千人、成田秀平といった、2014年のU20日本代表勢とともに試合を経験。憧れのボスからのタフな要求にも、「僕がこの人のもとでやりたいと思ったから…。この人に認めてもらいたいな、という思いです」。
今季中の公式戦デビューを見据え、チャレンジを続ける。
(文/向 風見也)