21−19と2点リードで迎えた後半開始早々。ハーフ線中央で相手ボールスクラムを迎える。
ここで意を決したのは、明大3年の齊藤剣。身長177センチ、体重115キロの左PRだ。最前列で、対峙する東海大陣営の掛け声に燃えた。
5月14日、静岡・県営草薙球技場。関東大学ラグビー春季大会Aグループの東海大戦に挑んでいた。
意を決した背番号「1」は、勝負の1本を押し込む。後ろの味方の援護も受け、ターンオーバーを決める。明大は奪った球を前方に蹴り、WTBの山村知也のトライなどで19−28と差を広げた。
この日は終始、スクラムで優勢をキープ。35−38と逆転負けも、手ごたえをつかんだ。
「スクラムから圧倒したいと思っていました。とにかく低くまとまって、真っ直ぐ押す…」
秋田県の八森中では、野球部の主将だった。もっとも、おもな位置は「8番・ファースト」。打順は下位が多かったようだ。
「球に当たれば飛ぶんですけど、当たらなくて」
中学卒業と同時に白球と別れを告げ、選んだ環境は能代工ラグビー部。父の晃さんや兄の海さんもプレーしたこのチームからは、熱烈な勧誘もあった。剣少年は、「必要とされているのなら…」とチャレンジに踏み切った。
素質は間もなく、認められる。高校2年の8月、長野・菅平で開かれたコベルコカップ全国高校合同チーム大会のU17の部に「U17東北選抜」の一員として出場。3年時は高校日本代表候補に名を連ね、明大入学を勝ち取ったのだった。
高校では当初、全国優勝58回の実績を誇るバスケットボール部の選手に「俺らが(学校を)引っ張っていくぜというオーラ」を感じた。もっとも、キャリアアップのたびに周りの目も変化した。当の本人は笑って振り返る。
「最初はバスケット部員に少しなめられていたんですけど、高校ジャパン候補とかに選ばれるようになると、『やれるんだな』と見られるようになりました!」
明大入り後も、昨年は20歳以下日本代表となるなど評価を受けてきた。都内での寮生活という環境の変化には、徐々に適応してきた。心身を充実させつつある3年目のシーズン。「自分の仕事はスクラム」と声を弾ませる。
(文:向 風見也)