国際リーグのスーパーラグビーに日本から参戦して2季目のサンウルブズが、5月23日、東京・辰巳の森ラグビー練習場で汗を流していた。27日には、都内の秩父宮ラグビー場でリーグ中断前最後の試合となる第14節を迎えるところである。
セッションの合間、合間に、身長166センチの小柄なファイターが声を絞る。大まかな内容はこうだ。
「(接点上のボールを)越え切ること、意識しよう!」
「しゃべろう! しんどい時ほど! 特にディフェンスで! 外の選手は、もっとFWに声をかけてあげよう」
「早く(攻防線上に)帰ろう! それですぐにコミュニケーションしよう! オーケー!?」
いずれもチームの戦術略の確認というより、その戦術略を支える個々の献身についての言葉である。特に、ぶつかり合いで身体を張るFW陣を鼓舞する内容が多い。
話主は田中史朗。日本人初のスーパーラグビープレーヤーとしてハイランダーズに4シーズン在籍し、今季からサンウルブズに加わったSHだ。日本代表58キャップを有する32歳は、発言の意図をこう語る。
「次は前半戦最後の試合、しかもホーム。しっかり勝って終わりたい気持ちが強いですし、厳しく、というか…。自分自身のコミュニケーションがまだまだ足りないとも感じていますし、自分のコミュニケーションの力を上げるためにも、声を出していました」
2月の開幕から計2度の休養週を消化したチームは、ここまでの戦績を1勝10敗とする。特に直近の20日にシンガポール・ナショナルスタジアムでおこなわれたシャークスとの第13節では、中盤まで接戦を演じながら17−38と敗れた。
負傷者との入れ替えのため前半10分から出場したHOの日野剛志は「スクラムでもこちらが反則を取られるまで押されたり、少しずつ(体力を)削られちゃっていたかな…」と反省。後半34分以降に3トライを許した防御について、ベン・ヘリング ディフェンスコーチはこう分析した。
「受け身になっていた印象はあります。選手によってはフィットネスが足りなかったかもしれませんし、最後はけが人も多く出ていました」
勝負を制するには1人ひとりのもうひと踏ん張りが欲しかった、という意味では、田中の「最後、射程圏内に入ってから1本取られて、気持ちが切れてしまった」という見立てとも共通するか。ヘリング コーチは、笑顔を浮かべながらも厳しい言葉を続ける。
「(試合を通して)個人のタックルのミスが多すぎた。それは残念。スーパーラグビーでの相手の能力レベルは高い。このレベルで戦うにはタックルのスキルアップからは避けて通れない。選手たちも理解していると思いますが、ここで戦うことは大きなステップアップでもあります。また、セカンドチャンス(失敗を取り返す機会)はない」
第14節でぶつかるチーターズとは、3月11日の第3節で対戦済み。敵地のブルームフォンテイン・フリーステートスタジアムで31−38と応戦している。かような善戦を白星に変えるには、苦しい時でも隙を作らぬマインドが必要…。田中はそう言いたげだった。
「そこ(終盤の失点)で切れないようにとリーダー陣とも話をしました。最後の最後までチームとして戦うことを意識づけていきたいです。自分自身、しっかりコミュニケーションを取っていきたい。しんどい時に普通の気持ちでやっていれば、パフォーマンスも悪くなる。しんどい時こそ、気持ちや小さいことを意識させるような声を出せれば…。しんどい時でもFW陣が動けるようにサポートをしていきたいです」
ホームのファンに2勝目を届けるべく、無形の力に魂を込める。
(文:向 風見也)
田中史朗(撮影:見明亨徳)