ラグビーリパブリック

リーダーとは。失敗してもすぐに次へ。京産大が王国の指揮官に学んだこと。

2017.05.12
左からスティーブ・ハンセン監督、AIGジャパンの
ロバート・ノディン代表取締役社長兼CEO、大西健監督。(撮影/宮原和也)
 世界中の目がそこに向いていた。そりゃそうだ。2年先におこなわれる祭典へ、ここからいっきに加速するのだから。
 5月10日におこなわれた2019年ワールドカップのプールドロー。大事な大事な組み分け抽選会がおこなわれる7時間前、2011年と2015年の大会を続けて制したニュージーランドを率いるスティーブ・ハンセン監督は京都産業大学のグラウンドにいた。これはオールブラックスのグローバルパートナーであるAIGジャパン・ホールディングス株式会社(以下、AIG)が縁を取り持って実現したもの。約90分に渡って開催された「All Blacks Coaching Academy」は同大学のラグビー部員たちにとって刺激のあるものとなった。
 王者にとっては3連覇が懸かっている大会。その対戦相手が決まる数時間前だったものの、指揮官はとてもリラックスしていた。
 第1部は室内にて、部員たちの前で話した。テーマはリーダーシップとメンタル。世界の舞台で頂点に立った人の話に、若者たちは何度も頷いていた。
「よいリーダーになるためには、まずは、自分自身のリーダーになってください。そのためには自分を知ることです。自分のアイデンティティーとはなんでしょう。例えば私なら、ラグビーの指導者であり、夫であり、兄弟がいて友人もいる。いろんなアイデンティティーをもっています。しかし本当はいろんなアイデンティティーを持つのに、ラグビーをやっていると、それだけを考えてしまいがちです。そうなってしまうと試合に負けたとき、すべてを失ってしまったような気になってしまいますよ。人に、自分のアイデンティティーを話してみてください。それを知った人は、いろんな場面であなたを助けてくれることになるでしょう」
 メンタル面では、試合中、頭の中はレッドになったりブルーになっていると話した。
「レッドは、やるべきことが多すぎたりして思考や体がフリーズしてしまう状態です。ブルーだと、頭の中はすっきりし、体が自然に動く。例えば、大きな試合の大事なシーンでボールを落としてしまう。試合中に頭の中がレッドになってしまうことは、いくらでもあるでしょう。ある意味、避けられないことです。問題は、レッドになりっぱなしになることです。大切なのは、すぐに立ち上がり、次のタスクに向かうこと。その解決方法を覚えることが大事です。レッドになると視野が狭くなる。そうなっていると気づいたとき、自分なりの解消法を持っているといい。体をつねってみてもいい。スタンドの右から左まで、大きく視線を動かすのもいいし、頭から水をかけてもいい」
 全員を立ち上がらせて足をつねらせた。大きく視線を動かすように促したり。名将は自ら選手たちとの距離を縮めていった。
 学生たちが聞き入る姿を見ていた京産大の大西健監督は「自分のことを言われているような気になりました」と言い、「こんな機会をもらった学生たちはシアワセですね」と目尻を下げた。
 ちなみに大西監督は、カンタベリー州代表のウインドブレーカーを着ていた。
「調べたらハンセンさんは現役選手の時にカンタベリー代表で活躍していたようなので、これを着てきたんです」
 おもてなしの心だった。
 ハンセン監督は、部員たちにこんなことも言った。
「困難を友だちと思い、(努力を)くり返してください。そうしているうちにアスリートになっていることがあります。簡単なことからはじめてもいいでしょう。ただ、簡単なことは誰でもできる。アスリートは、困難を乗りこえることができる人です」
 グラウンドに出てのタックルセッション、ラインアウトの指導も的確で、大西監督は「教えてほしいことを教えていただいた」と感激していた。
 中川将弥主将は「キャプテンとしてリーダーシップの話は勉強になりました。自分、自分となってしまうところがあったので」と話した。この経験を今後に活かす。
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