細やかな人だ。テストマッチデビューを間近に控える心境を、22歳の山沢拓也は自問しながら丁寧に答えてゆく。
「あまりわからないですけど、たぶん緊張しているんだろうな、というのがあって。もっと頭のなかでゲームの組み立て方、サインの確認をしないと、不安だな、と思う部分が…」
ラグビー日本代表は4月29日、東京・秩父宮ラグビー場であるアジアラグビーチャンピオンシップの第2試合に挑む。前節に続き韓国代表と激突するチームにあって、若き司令塔候補の山沢は今大会初のリザーブ入り。埼玉・深谷高時代に初めて候補入りした日本代表で、いよいよ初陣を飾るか。
身長176センチ、体重81キロ。筑波大の4年生だった昨季はパナソニックに登録し、国内最高峰のトップリーグでプレーした。同リーグ初の大学生選手として、話題を集めた。
ジャパンを率いるジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ(HC)は、起用の背景をこう語る。
「山沢はまだ若く青いところもありますが、我々の求めるスキルを持ち合わせている。このレベルでのラグビーがどういうものかを味わわせてあげたいので、後半、どこかで…」
ジョセフHC率いる日本代表では、各ポジションの役割が明確化されている。例えば攻撃時は、フィールドの両端、中央に複数のユニットが並び立つ。スペースへテンポよくキックやパスを放つ、グラウンドを大きく使ったラグビーを志す。
背番号10のSOに入りそうな山沢は、「難しいことを要求されているわけではない。ただ、シンプルななかでも1つのパス、キックが重要になる」と分析。1つひとつの動きを、より正確かつスムーズにおこないたいようだ。
ヤマハのヘッドコーチでもある日本代表の堀川隆延アシスタントコーチは、自身の現役時代と同じSOの山沢からよくアドバイスを求められるという。その知性や才能に、太鼓判を押す。
「すべての戦略を完璧に理解しようとする。だから、質問の内容もすごく細かいです。センス系かと思いきや、ちゃんと熟知して、物事を遂行したいという感じです」
その言葉は、かつて20歳以下日本代表のHCとして山沢を見つめた中竹竜二・日本協会コーチングディレクターの見立てとぴったりと重なる。
「彼はある意味で、超ネガティブ。でも、それは、完璧主義という意味です」
事実、当の本人は26日の都内での練習後、会話を重ねるなかでキックやコミュニケーションについて具体的な反省点を列挙。それらの肥やしを、本番でのハイパフォーマンスにつなげたいだろう。
「当たり前にするようなところの精度を、高く保ってやらないと。例えば、(練習中)陣地を脱出するところでタッチ(ラインの外)へ蹴られなかったり、ロングを蹴らなきゃいけないところで低いライナー性を蹴ってしまったり…。あとは、声出しについては、もっとFWにわかりやすく(次にするプレーを)伝えられるようにしたいです。早く伝えないと、FWは迷うので」
当日、きっと山沢は自分のプレーに満足はしない。ただ、それは活躍するかどうかと別の話だ。
(文:向 風見也)