171センチ、80キロと小柄も、視野の広さで勝負する。
(撮影/松本かおり)
緩急をつけた動きから、長短のパスを配って仲間を走らせた。激しいタックルを食らうシーンもあったが、自らタックルで圧力もかけた。司令塔自ら走るシーンも。
4月26日に開催されたトップリーガー発掘プロジェクト2017。当日実施された試合に、白チームの背番号19はラグビー人生を懸けた。
2016年度の立教大学ラグビー部キャプテン、御苑剛(みその・たけし)。現在5年生として在学し、後輩の指導にもあたっている。卒業に必要な単位は昨年のうちにすべて取得したから時間はある。
学校に残ったのは就職のためだ。正確に言うなら、高いレベルでプレーを続けるため。昨年はトップリーグチームから声がかからなかった。だから今回のトライアウトに参加して、自分をアピールした。
「どうしても、トップリーグでやりたいんです」
理由は自分の中では明確だ。
「ぎりぎりのところでやりたい」
もし自分がトップリーグでやれるとしたら、這い上がっていくしかない立場だ。そんな状況を望んでいる。安穏とできる日なんてやって来ないだろう。それがいい。
「自分の人生を振り返ったとき、本当にキツい状況のときに成長できているんです。桐蔭(学園高校)のとき、なかなか試合に出られなかった。そんなときに伸びた気がします」
だから、あえて困難な道を歩みたい。
望まれるところより、自分の望む場所へ。それを貫く。
立教大に入学後は1年時から試合に出場し続けることができた。しかし4年が過ぎたとき、自分が最大限成長できたかどうか自信を持てなかった。
「4年のときは平日にコーチがいなかったので、自分たちで自主性をもってやるとか、実行力とか、そういった点では成長できたと思います。キャプテンをやったことは、人間的にもいい経験になったとは思うのですが」
ただ、ひとりのプレーヤーとしては、もっと厳しく日々を過ごせたかも。胸を張って、やれることはやり切ったとは言えない。
1年前、大学4年時にもトップリーガー発掘プロジェクトに参加した。トップイーストのチームなど、いくつかの下部リーグチームから話はもらった。しかし断った。「より困難なところで」というこだわりを何より重視した。
「生意気ですよね。(せっかくもらった話を断るのは)贅沢ですよね。下部リーグだって苦労するとは思うんです。でも、トップリーグへの思いを大事にしたい。もがき苦しむところでやりたい」
チャレンジは今回をひと区切りにしようと思っている。このトライアウトへの準備を進めながら、並行して就活もおこなってきた。
「今年ダメなら、ラグビーに注いできたぐらいの情熱で仕事に取り組もうと思っています」
生意気に生きたいわけでない。退路を断つ覚悟で挑まないと願いは届かないと思っているだけだ。
大学4年時の最後の公式戦。昇格を懸けた関東大学対抗戦A-B入替戦で成蹊大学に26-29と敗れた後、主将として仲間や後輩たちの前で言葉を絞り出した。
「この日、この試合のために1年間やって来たけど、努力が3点分足りなかったと言うことだと思う。いい指導者は負けた理由を、『自分の責任』と必ず言うけど、これは自分たち、俺らのせい。日々のグラウンドで甘かったから負けたと思う」
そんな経験も、今回の決断と無縁ではないだろう。
SOの位置に入った今トライアウトの試合では積極的に動いた。試合前には、こう口にしていた。
「アタックの仕掛け。状況判断。タックルもしっかりしたい。強い、うまいじゃないところを見せられたら」
御苑剛の本質は、評価する人たちに届いただろうか。