ラグビーリパブリック

ギャムと金メダルに刺激。トップリーグ合同トライアウトの純情フィジアン。

2017.04.27
50?走5秒台のアロイシオ・モセイトゥバ。(撮影/松本かおり)
 強い思いを抱いた若者たちがいた。約5時間、精一杯自己アピールした。
 4月26日、東京都町田市のキヤノンスポーツパーク。2017年度の大学4年生や20歳以上のラグビー経験者を対象としたトップリーガー発掘プロジェクト2017が開催された。4月19日には関西地区でも実施されている。
 会場をグルッと囲むトップリーグや下部リーグチームの採用担当者たち。合同トライアウトと言っていいこの日、チャレンジ精神を胸に60人弱がピッチに立った。年齢別代表経験のある者もいれば、今季の飛躍が予想される新4年生、下部リーグ所属チームでプレーする選手、留学生たちも。海外からの挑戦者もいた。
 ある4年生は、「誘っていただいたチームはあったのですが、自分が希望するポジションとは違う位置で期待しているということだったのでお断りして…」と話し、この日、「もっとも自分の力を出せる」というFBでプレーした。3年時までにレギュラーの座に届かないケースや、怪我で出場機会を逃した選手たちも、リクルーターの目から漏れることがある。そういった選手たちも、この日に懸けた。
 午前中に個人セッションやユニットセッションがおこなわれ、午後は3チームに分かれての試合(各試合30分)。その時間内に選手たちは自分の持つ能力を示し、採用担当者たちは姿勢や技術をチェックした。
 チャレンジャーの中には、九州からやって来たフィジアンたちがいた。
 アロイシオ・モセイトゥバ、ウルペニ・セニブルのふたりは、大分・別府にある立命館アジア太平洋大学(APU)のラグビー部で先輩、後輩にあたる。すでに同大学を卒業しているモセイトゥバは現在、佐賀の三日月中学校でALT(外国語指導助手)として働いている。セニブルは大学4年生になったばかりで、国際経営学部に学ぶ。ともに流暢に日本語を話す。
 モセイトゥバは50?走5秒台のスピードと左右に切れるステップ、オフロードパスが武器だ。178センチと身長はないがガッシリした体型。現在はクラブチーム、玄海タンガロアに所属している。
「子どもの頃から日本のラグビーとエンジニアの仕事に憧れていた。それでAPUに留学しました」
 そう話す23歳は、男子セブンズ日本代表で活躍する副島亀里ララボウラティアナラの出身地であるバヌアレブ島からやって来た。8歳の頃、首都スバの小学校チームでラグビーを始め、同地のマリスト・ブラザーズ高でも楕円球を追った。父・マリセロさんはフィジー代表コルツに選ばれたこともある。
 日本の人たちは優しく、現在の生活も楽しい。しかしラグビーを思い切りやれて、それで食べていけるなら、それこそ「夢のよう」と言った。同じ島の先輩で、同じ佐賀に住む副島とは交流がある。まずは日本で生活基盤を作り、その後、ラグビー界でのサクセスストーリーを歩んだ彼の人生が刺激になっている。
「リオ五輪でのギャム(副島の愛称)の活躍(4強)、フィジーのゴールドメダル獲得は、自分にとってすごくいいモチベーションになりました。ギャムはラグビーでのチャンスを掴むために何年も待ち、頑張り続けた。自分も何度でもチャレンジしたい。ギャムにも、よく声をかけてもらっています」
 好きな選手は元アイルランド代表のブライアン・オドリスコル。小さくても高いスキルで突破する姿を自身に重ねている。
 この日の試合でもたびたび快足を披露したセニブルは、軍隊で働く父、政府関連の仕事に就く母の間に生まれた。奨学金を受けてマーケティングを学ぶ。ときにはビニールハウスを九州各地で組み立てるアドバイスをしたり、異国の地での学生生活を楽しんでいる。
 フィジー、タイレヴ出身。モセイトゥバと同じマリスト・ブラザーズ高校を卒業した。「日本人の仕事ぶりと時間を守る真面目さが好き」と言う青年はこの国で働くことを希望している。先輩同様、できるだけ長く日本で生活したい。
「現在勉強していることを活かせる分野、国際的な活動を展開している企業で働きたい。ただ、それは近い目的です。その先には、夢があります。ラグビーを思いっきりやれる環境があれば挑戦したいんです」
 こちらも昨夏のギャムの活躍と母国の金メダル獲得に心を奮わせ、モチベーションを高めた。まだ線は細いが、強気でスペースを駆け抜ける姿は、佐賀から日本を背負う存在へ進化した好ランナーとだぶるところもあった。
 南の島の好漢ふたりのチャレンジは、今年実るか。それとも来年また、今回と同じステージに姿を見せるのか。
 いずれにしても若きフィジアンは、「ラグビーで食う」夢を叶えるためにまだまだ走り続ける。

ステップワークと強気の走りを見せたウルペニ・セニブル。
(撮影/松本かおり)
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