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<不定期連載 壁を打ち破れ!〜サンウルブズの挑戦>  上野裕一ジャパンエスアール会長が考える日本ラグビー未来像?  「2019年W杯見据え、ジャパンに関するそれぞれのジグソーパズルを」

2017.04.07
ブルズ戦がサンウルブズでのデビューとなるFB松島。
コンディションも良く、キレ味鋭い走りを見せてくれそうだ(撮影:出村謙知)
 4月8日、ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズは今季国内2試合目となるブルズ戦を迎えます。
 すでにメンバーも発表されました。
 15人の先発メンバー中10人が今季スーパーラグビーでデビューした選手で占められるなど、ブルズ戦でもフィロ・ティアティア ヘッドコーチを中心とするコーチングスタッフが進める若手に経験を積ませる方向性が維持されています。
 本当に楽しみなメンバーが揃ったと思っています。
 復帰するSH田中史朗、サンウルブズでのデビュー戦となるFB松島幸太朗といった既にジャパンでも主力になっている選手たちが若いチームをどう引っ張っていくのか。あるいは、徳永祥尭、松島周平の日本人FL陣がパワフルなブルズFWにどう立ち向かっていくのか。
 サイズには恵まれない日本人でも南アフリカを倒せるというところを日本のファンの前で証明してほしい。日本の子どもたちに希望や夢を与えられるような試合にしてもらいたい。いや、そうしなければいけない。
 私自身、2014年の年末にスーパーラグビー参入の話を正式に聞いた時、「2019年のワールドカップで日本代表が結果を出すためにはこれしかない」と思いました。
 “ティアー2”と呼ばれる第2勢力である以上、アジアラグビーチャンピオンシップを除けば、年間6試合程度しかテストマッチを組むことができず、代表強化という意味では限界があるのが実情でした。
 正直言えば、その時点でのSANZAR(南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリア3協会のジョイントベンチャー。現在はアルゼンチン協会も加わり、SANZAARに)の日本代表に対する評価も「州代表レベル」というものでしたし、そういう現状がある以上、年間10数試合、テストマッチに近いレベルの試合を経験できるスーパーラグビーこそ、2019年のワールドカップに向けての日本代表強化に直結するものだと直感したのです。
 あるいは、ファンのみなさんの中には「サンウルブズは日本代表でも主力としてプレーする選手を常時起用すべきだ」という考えの方もいらっしゃるかもしれません。
 ただ、現在の最大のゴールである2019年というものを見据えた時、成功のキーのひとつに「プレーヤーズ・ウェルフェア」があるのは紛れもない事実です。
 つまり、いかに選手たちのコンディションを維持していくか。
 当然ながら、スーパーラグビーで行われているプレーの強度はテストマッチ並みに高い。そこで高いパフォーマンスを発揮するためには、いいコンディションで臨むことが最低限の条件であり、選手が疲弊した状態でプレーし、避けられるべきだった怪我をしてしまうことが、2019年に向けた強化にマイナスになることも明らかです。
 8月から1月はトップリーグ、6月と11月にはテストマッチ。そこにサンウルブズのスケジュールが加わるようになり、代表選手たちのスケジュールが厳しくなる一方であることは、誰もが認めるところでしょう。
 もちろん、サンウルブズは日本代表を強化する存在でなくてはいけません。2019年に向けて、コアメンバーをしっかり休ませることも成功戦略としては必要ですし、その一方で将来的に日本代表を背負って立つ可能性のある若い選手たちを強化していくことも同じくらい重要なことでしょう。
 今シーズンのサンウルブズは50人を超える、通常では考えられないような数のスコッドメンバーを抱えています。これもプレーヤーズ・ウェルフェアと若い選手たちの強化こそ2019年に向けた成功の鍵であると信じているからです。もちろん、チームとしては多くの選手を抱えることは、財政面等での負担が多くなり、リスクがあるのは事実です。
 それでも、いまは夢を見るべき時。
 いろんなポテンシャルを持つ選手がサンウルブズの可能性を広げてくれています。当然ながら、それは日本代表、そして日本ラグビーの未来を明るくしてくれる存在でもある。
 確かに、苦しい戦いが続いています。今シーズンはまだ勝利という結果は出せていません。
 それでも、南アフリカの強豪と転戦してきたシンガポール、南アフリカ遠征でも、サンウルブズが勝っていてもおかしくない惜しい試合が続きました。若いチームは間違いなく可能性を示してくれている。
 ホームでのブルズ戦で今季初勝利という結果を出す。すでにその機は熟しているとも思いますし、ファンのみなさんにも2019年に向けて若き桜たちがどう開花していくのか思いを馳せてもらえる貴重な機会にもなるのではないでしょうか。
 2019年のワールドカップということを考えるなら、日本代表としてテストマッチを戦えるウィンドウマンスは5回のみ。その機会を有効に使うため、フィロ・ティアティアは常にジェイミー・ジョセフ日本代表ヘッドコーチと密なコミュニケーションを取りながら、サンウルブズの指揮にあたっています。
 あるいは、サンウルブズというチームとしてはファンのみなさんに辛抱を強いているかもしれません。それでも、いまはひとりひとりがそれぞれのジグソーパズルを並べていってほしい。2019年のワールドカップでベスト8進出を果たせるメンバーのです。我々はそこにつながる可能性のあるものはすべてヒントとして提示し続けます。

<プロフィール>
上野裕一(うえの ゆういち)
ビジョンは I contribute to the world peace through the development of rugby.
1961年、山梨県出身。県立日川高校、日本体育大学出身。現役時代のポジションはSO。
同大大学院終了。オタゴ大客員研究員。流通経済大教授、同大ラグビー部監督、同CEOなどを歴任後、現在は同大学長補佐。在任中に弘前大学大学院医学研究科にて医学博士取得。
一般社団法人 ジャパンエスアール会長。アジア地域出身者では2人しかいないワールドラグビー「マスタートレーナー」(指導者養成者としての最高資格)も有する。
『ラグビー観戦メソッド 3つの遊びでスッキリわかる』(叢文社)など著書、共著、監修本など多数。
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