【写真】選抜大会に向け、試合形式の練習に汗を流す天理高校。
コンタクトスーツを着てるのが1本目
伝統の純白ジャージーが、3月31日に開幕する第18回高校選抜大会(埼玉・熊谷)に滑り込んだ。
天理(奈良)は3月23日、近畿大会の第5代表決定戦で報徳学園(兵庫)を24−22で振り切る。2年ぶり6回目の出場を決めた。
43歳の監督・松隈孝照は、春の陽光でチョコレート色に日焼けした顔で抱負を語る。
「ウチらしく、1戦1戦ひたむきに戦っていきたいですね」
保健・体育教員でもあるOB監督は4月から就任6年目を迎える。
4チームの総当たりによる予選リーグは、「死の」と形容されるA組に入った。
優勝候補の東福岡(福岡)、尾道(広島)、深谷(埼玉)と実力校が並ぶ。
8校による決勝トーナメントに入るためには1位抜けが必要だ。
初戦の相手は4月1日、東福岡になった。今年1月7日、全国制覇を達成。4月7日にフランスで開幕する「U18ヨーロピアン チャンピオン カップ」のU18日本代表に8人を送り組む超高校級チームである。
「すごく戦いたかった相手です。上を目指すにはあんなチームに勝たないといけない」
天理の創部は1925年(大正14)。天理教の統理者である真柱(しんばしら)の2代目にあたる中山正善(しょうぜん)の肝いりで作られた。自身は柔道出身であったが、旧制高校時代に出会ったラグビーの自己犠牲の精神などに興味を奪われた。この学校では、ラグビーと柔道は真柱に近いスポーツであったため、校技的な扱いを受けている。
今年で創部93年目。62の全国大会出場回数は、66の秋田工(秋田)に次ぎ全国2位。優勝回数6は、秋田工の15、啓光学園(大阪、現常翔啓光)の7に次ぎ3位。東福岡と並ぶ。
松隈は、同校OBでもある日本代表の立川理道(クボタ)の評伝『ハルのゆく道』(村上晃一著、同友社)で話している。
<天理高校が日本一を目指さなかった年はありません。どんな選手も日本一になるためにやる。相手が強ければ、そこに勝つために練習は厳しくなります>
現在の部員数は55人(新3年生=30、新2年生25)。1、2本目が選抜に向け、試合形式の練習を繰り返す中、そこから漏れた者は30分間、グラウンドの周囲を走り続ける。コーンの置かれている場所では寝て、起きる。ハードトレに息遣いは「はあはあ」から「ぜいぜい」に変わる。内側の30人を見つめながら、松隈は時折視線を外に向ける。
「しっかりやっている生徒も、力を抜いている生徒もわかります」
下のメンバーからも目を離さない。
昨年春、人工芝化されたグラウンドで技術指導をするのはOBでもあるヘッドコーチの松村径(けい)だ。U19日本代表や母校の筑波大、専修大、関西大などの強化に携わった。
「どうして今のアタックにFWが1枚しかついてないんや!」
怒声が響き渡る。それを目の当たりにしながら、松隈は話す。
「ケイはすごいですよ。生徒がみんなあいつを慕っています。練習ではどなったりしても、終われば寮で一緒にごはんを食べて笑っていますから」
オンとオフの切り替えは、松村のプロとしてのレベルの高さを示している。
その教えは浸透する。
ポイント周辺からは素早く飛び出し、そのまま横走りする。ラインは面を崩さず前進する。外側のタッチラインを利用してアタックを包み込むディフェンスは、2012年秋、当時Bリーグだった関西大をAに昇格させた。
17−22と大阪桐蔭(大阪)に近畿大会準々決勝で敗れた。スクラムからのSHのループプレーを止められなかった。イレギュラーな動きは経験として埋め込まれる。失敗によりシステムはさらに精度を上げる。
松隈と松村は同級生だ。左右のWTBとして2年時の69回大会(1989年度)では啓光学園を14−4で下し優勝。3年時の70回大会では熊谷工(埼玉)に9−19で敗れたが、準優勝をする。天理の黄金時代を知る2人は母校への恩返しに燃える。
主将のLO小林真陽(まさたか)は、南信州ジュニアラグビースクールの出身だ。菅平での天理の夏合宿を見て、心を奪われる。
「ひたむきで素晴らしいなあと思いました」
長野から奈良へ。現在は寮生活を送る。
「毎日楽しいです。寮のごはんも美味しいし。特に好きなのはハンバーグです」
以前あった過度の上下関係は消えた。管理栄養士がつき、食生活もアスリート用に改善されている。
勉学とラグビーのみに集中できる中、小林は東福岡戦を見据える。
「とてもやりがいがあります。そこを倒せば、自分たちの成長を見せつけられます」
選抜大会で、天理は2004年の第5回大会で優勝している。最終的には目指すのは、もちろんその高みである。
(文:鎮 勝也)