U18日本代表に8人が選出された東福岡高校。写真中央は藤田雄一郎監督(撮影:BBM)
本来あるべき姿と言われればそうかもしれない。でもそれを実現するのはそう簡単ではない。あのラグビー王国ニュージーランドですら、オールブラックスを除けば同様の問題は存在する。同国セブンズ代表の監督としてワールドセブンズシリーズを12回も制した名将、サー・ゴードン・ティッチェンも、スーパーラグビーと並行して行われるセブンズシリーズへ思うように選手を招集できないことに、絶えず頭を悩ませていた。
去る3月8日、「2017ラグビーヨーロッパ男子U18ヨーロピアンチャンピオンシップ」に参加するU18日本代表が発表された。同大会はラグビーヨーロッパの主催で2004年から開催されている世界的にも貴重なU18代表のチャンピオンシップトーナメントで、今回はフランス、ジョージア、日本、アメリカ、ポルトガル、ベルギー、カナダ、スペインの8か国が出場する。日本は今回が初参加だ。
大会期間は4月7日から15日までで、U18日本代表は4月3日に現地へ向け出発する。ちょうど同じ時期、国内では全国高校選抜大会が行われる(3月31日開幕、決勝は4月9日)。つまりU18代表に選出された選手は、4月4日の予選プール最終戦以降は出場できないことになる。
各ブロックの新人大会で上位に進出した強豪が集い、予選リーグから決勝トーナメントと多くの試合を戦う春の全国選抜大会は、その年の高校ラグビーの流れが決まる機会として非常に重要な位置づけとなっている。過去10大会で選抜大会の優勝校が花園を制したケースは6回(2011年度は東日本大震災の影響で選抜大会は中止のため、実質は9大会中6回)と、春冬の関連性も高い。
ユース代表に選ばれるような選手の多くは、選抜大会で上位を争う強豪校の所属だ。チームにすれば、そうした選手を代表に送り出すことは大きな戦力減を意味する。選手にとっても、高校時代にしか出場できない大会に出られないことの喪失感は大きい。今回はヨーロピアンチャンピオンシップへの出場決定のタイミングが急だったこともあって、当初は「選抜大会に出場しないチームの選手でU18を編成する」という話も出ていた。
しかし、そんな見込みとは裏腹に、3月8日に発表されたU18日本代表には選抜出場校の主軸も主軸というべき面々がずらりと名を連ねた。
ヘッドコーチ(HC)を務める静岡聖光学院の星野明宏総監督は、感謝の思いを口にする。
「どのチームの先生も、快く『出します』と言ってくださって…。ケガなどのやむを得ない事情を除けば、ほぼベストのメンバーがそろいました」
学校の副校長でもある星野HCは、U18を率いることが決まった後、多忙な業務の合間を縫って候補者の多い学校を中心に各地へ足を運んだ。「大切な選手を出してもらうお願いに行くわけですから、顔を見て説明したかったんです」。話をする際は誰々を出してほしいではなく、U18日本代表がヨーロピアンチャンピオンシップに出場する主旨と意義を、ひたすら伝えた。
拘束力を持つ招集ではなく、最終的な判断はそれぞれのチームに委ねた。結果として集まったのは、ほとんど理想通りの26人だった。
昨季2度目の高校3冠を達成し、今シーズンも覇権争いの中心と目される東福岡からは、NO8福井翔大主将をはじめ実に8人が選出された。藤田雄一郎監督は、胸の内をこう明かす。
「選抜大会はもちろん大切ですが、桜のジャージーの重みとは比べられない。日本代表を目指す選手たちの可能性を指導者が阻害するようなことはあってはならないし、どんな状況も代表を優先するのがスタンダードになるべきだと思う。選手たちに判断を任せると迷わせると思ったので、監督命令で『行ってこい』と伝えました」
京都成章の湯浅泰正監督も、「迷っていたら背中を押そうと思っていました」と言う。
「行きたい気持ちはある。でもチームのことも大事だし…というのが、見ていてもわかったんで。いない影響は大きいですが、日本のためにがんばってこい、と」
ちなみに今回の件に関して、各校の関係者が横のつながりで相談をしたり、連携をとったりしたことはなかったそうだ。それぞれが悩んだ末に、自分の意思で結論を出した。すると自然と足並みはそろっていた。
「発表されて初めて、『お、すごいメンバーやな』と知ったくらいで。高校の現場に携わる者として、日本のラグビーが2019年の先に続いていくためのお手伝いをできれば、という意識は、常にあります」(東海大仰星・湯浅大智監督)
メンバーが発表された後だけにみな口調はさっぱりしていたが、絶対に簡単な決断ではなかったはずだ。チームと代表のどちらを優先すべきか。いくら理屈で考えても、100パーセントの正答はない。
星野HCは今回のU18日本代表を編成するにあたって、こんな決意を抱いていた。
「川淵三郎さんがバスケットでBリーグを作ったように、外の力で改革に成功したスポーツがあります。日本のラグビー界は内部にすばらしい力があるのに、そうした外部の力に期待しているところがあった。ラグビーは自分たちで内部から改革できる競技なんだということを、証明したかったんです」
そして続けた。
「思いの伝わる人がこれだけいたということが、何よりうれしかった」
自チームを犠牲にして選手を出したから偉いとか、選ばれたのに辞退することが悪いというつもりはない。それぞれにはそれぞれの事情がある。限られたギリギリの日程の中でさまざまな大会をやりくりしなければならない協会関係者の苦しさも、重々理解できる。簡単に解決策が見つかる問題ではない。
ただ、これほど日本代表を、日本のラグビーのことを思い、リスペクトし、未来を考えている人たちがいる。そろそろ桜の咲く季節、そのことがただただ誇らしかった。
【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。