無駄なことはない。
徳永祥尭が、国際リーグのスーパーラグビーを見据えている。参戦2年目となる日本のサンウルブズへ初めてスコッド入りを果たし、海外出身選手らとのポジション争いに挑む。2月、東京は辰巳の森ラグビー練習場。今季初めての合宿で汗を流した。
身長185センチ、体重100キロのFW第3列。関西学院大から入社した東芝では、ルーキーイヤーの2015年度からレギュラー格に定着。密集戦のボールへ絡む技術、狭いスペースを駆け抜けるランを評価されていた。入社2年目のシーズンは男子7人制(セブンズ)日本代表としてリオデジャネイロ五輪に出場した。
かねて「(五輪以降は)15人制の日本代表を目指したい」と話していただけに、サンウルブズを目標の舞台のひとつとしていた。もっとも、プレシーズンキャンプで感じたのは厳しい現実だった。折しも東芝が国内のトップリーグで16チーム中9位と低迷していたことを踏まえ、こう心境を語る。
「今年の成績と同様、レベルが低かったなと。パス、キャッチ、ゲーム理解などでそう感じました」
そうは言っても爪痕なら残した。東京合宿最終日となる3日にあった、守備練習でのこと。横一線に並んだライン上から鋭く飛び出し、パスが出た側の肩で相手ランナーを止めた。チームの防御システムを咀嚼しきったような動きで、コーチ陣から「Nice!」の声を引き出した。
さらに実戦形式の練習では、ここまでの積み重ねも発揮した。急な攻守逆転時、器用に大外のスペースへパスを放ったシーンだ。セブンズ代表での経験が「15人制にも活きている」と語ったのは、五輪終了直後のこと。サンウルブズでのパフォーマンスでも、その言葉を改めて思い起こさせた。
「(ボールを動かす)BKの選手にとっては当たり前かもしれませんが、ラグビー観を広げられました。(1人ひとりが多くの役割をこなす7人制でのプレーを通して)アタックのラインを動かす、(広いスペースのある場所で)人を引きつけて周りを活かす、と、いままで自分ではやってこないことをやったので」
15人制とグラウンドの大きさは同じなのに、プレーに参加する人数は半分以下。そんなセブンズの試合を通し、広いスペースを攻略するためのスキルや考えを身に付けたという。サンウルブズは攻撃時、グラウンドの左右いっぱいに選手が広がる。難なく長いパスを放れる徳永の資質は、きっとどこかで活かされるだろう。
セブンズ代表でのキャリアは、参加したことのないスーパーラグビーへの「免疫」のようなものも作ってくれている。
徳永は五輪イヤーに、海外でのセブンズワールドシリーズに3度にわたり帯同してきた。そのためスーパーラグビーにつきものの長距離移動の対処法は、自分なりに構築しているのである。
そう。無駄なことはない。
「時差ボケがしやすければ、飛行機のなかでも向こうの時間に合わせて寝る。また、僕たちは身体が大きい分、ずっと座っているなかでハムストリングや腰がむくんでくる。それが怪我の原因にもなるので、1時間ごとに歩いたりストレッチをしたり…」
サンウルブズやスーパーラグビーならではの特性や留意点についても、同じ東芝から前年度も加わった国内最多キャップ保持者(国際真剣勝負に98試合、出場)の大野均、同期の小瀧尚弘からヒアリング。抜かりなく準備を施し、持てる力をフル出力したい。
「(試合会場の)暑さなど、ラグビー以外にも大変なことはあると聞きました。今後、日本代表に入ったら遠征も増えると思うので、そういうところへの対策もちゃんとしていけたら」
短期スパンでの目標は公式戦デビュー、さらに15人制の日本代表への初選出だ。今季はサンウルブズの選手選考に日本代表のジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチが関わるなど、両チームの連関性が担保されている。選手にとっては、サンウルブズでのアピールが代表入りへのアピールにつながる。
徳永は言う。
「個人的な目標はサンウルブズで試合に出ること。6月の代表もサンウルブズからメンバーが絞り込まれるので、そこに入れるような実力をつける。それが自ずと、トップリーグ(での成果)にもつながっていくと思います。目の前のことを、やっていきます」
ジャパンは6月、ルーマニア代表、アイルランド代表と激突。欧州のフィジカリティ自慢の国々を前に、「他競技」の経験を肥やしにする「トク」が大暴れするか。
(文:向 風見也)