ラグビーリパブリック

世界的バックローを向こうに泥にまみれる。サントリーNO8小澤直輝の誓い。

2017.01.28
写真中央がNO8小澤直輝。大舞台で走り抜く。(撮影/松本かおり)
 オザパンさんを知っている人、手を挙げて。
 失礼ながら子どもたち相手のラグビークリニック開会時、そんな質問を投げかけてもあまり反応はよくない。でも、クリニックが終わる頃にはいつも人気者。つまり小澤直輝はナイスガイだ。
 優しくて、おもしろい。そんな28歳が、1月29日におこなわれる日本選手権ファイナル、サントリー×パナソニックで8番の黄色いジャージーを着ることになった。今季はトップリーグの後半戦で6試合に出場し、先週の日本選手権、帝京大学戦にはFLで先発した。
「シーズンを通して戦ってきたチームの最後の最後の試合。この日のために準備を重ねてきたチームの中で先発できるというのは嬉しいし、光栄ですね。感謝の気持ちを忘れずに、責任、そして試合に出られない人の気持ちも胸に戦いたい」
 やわらかな人あたりだけどプレーはハード。決戦前日、「いい緊張感を感じています」と言った。
 桐蔭学園から慶大を経由して入団6年目。182?、103?とトップリーグのNO8としては小柄な部類に入る。他チームでは外国人選手も少なくないそのポジション。ペネトレーター役を務めるタイプを起用するチームが多いけれど、サンゴリアスでは竹本隼太郎、小澤ら、パワープレーを得意とするタイプではない者を起用することが多い。
 力ずくでプレーするのでなく、低い姿勢でワークレートが高く、体を張る。そして、周囲とのコミュニケーションをとって前へ出るべき時には前に出て、リンク役にも。
「自分には体を張ることしかできません。やれることをやって、チームの勝利に貢献していきたいですね」
 社業ではウイスキーやワイン担当の営業職で、チェーン店相手に商品を扱う。シーズンを笑顔で終えられたら、たっぷりと勝利の美酒に酔いたい。
 2015-2016年シーズンは9位という成績に終わった。その1年で学んだことはいろいろある。今季のチームがV字回復の成績を挙げられたのは、「去年の成績に、全員がチャレンジャーの気持ちで挑めたから」。失敗から学んだことは、ピッチ上のパフォーマンスへの影響も少なくなかった。
「柔軟性というか対応力が必要だと、あらためて知りました。昨年までは、とにかくボールを維持し続けることにこだわっていた。でも今季は、どこにチャンスがあるのか。ひとつのことにこだわるのではなく、それを探し、そこにチャレンジすることが大切だ、と意識を変えたことがチームを変えました」
 HOに挑戦したシーズンもあった。チーム状況の影響もあったものの、少しでも試合出場機会を増やしたかったからだ。実際は16番を背負ってバックローを務めたり、フロントロー定着とはいかなかったが、ポジションはどこであれ、トップチームでの試合経験値が高まったことが自身の成長を促したと感じた。
「フロントロー仕様で3?ほど体重を増やした影響もあって、体を重く感じることもあったのですが、それよりも実際の試合で学ぶことができたのが大きかった」
 今季はバックロー仕様の体重。よく走れている。
 ファイナルで戦うパナソニックの8番を背負うのは、世界的バックローであるデービッド・ポーコック(豪州代表)。タフな相手には違いないが、気負うつもりはない。ひとりのプレーヤーとして「(対峙するのは)楽しみ」ではあるけれど、「相手のキープレ−ヤーを止めるのは重要。そういう意識で戦いたいと思っています。コンタクトエリアでぶつかることは多いでしょうが、基本通りに低い姿勢で戦う。ジョージ(スミス)、ヘンディー(ツイ)とリンケージをとってプレーすることが大事」と話す。
 チームを率いる沢木敬介監督は、「お互い(のチーム)にとってブレイクダウンはとても重要な局面。うちにはジョージがいるので(日々の練習の中で)少しでもスキを見せたらボールを奪われるということはわかっている。ポーコックが仕事ができないようにFWで勝ってほしい」と黄色いパックに信頼と期待を寄せる。背番号8のジャージーが人一倍泥にまみれながらも、いつも立ち続ける。それも勝利の条件の一つだろう。
 好漢オザパンの存在感を広く知らしめる80分にしたい。
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