ラグビーリパブリック

足が重い。でも、それで支える。人生初決勝へ挑むサントリーPR須藤元樹の意欲。

2017.01.27
名前の「樹」には「大木のようにたくましく」の願いが込められている。
(撮影/松本かおり)
 重いんです。そう言った。
 何が。自分の足が、だ。
 173?、110?の体躯には筋肉がギューッと詰まっている。その体を支えるのは、ぶっとい太もも+盛り上がったふくらはぎ。その足を重く感じるときがあるんです。そう言うと、片足を上げて笑った。
 トップリーグを制したサントリーサンゴリアスのPR須藤元樹は、ルーキーイヤーながら全15試合に出場し(先発5試合/途中出場10試合)、ヤマハ発動機戦からのラスト3試合では背番号3を背負った。日本選手権初戦でも先発。シーズンのフィナーレを飾る1月29日の日本選手権決勝でもキックオフ時からピッチに立つ。
 
 練馬ラグビースクールで小学校6年時に楕円球を追い始めた後、國學院久我山高校、明治大学とエリートコースを歩みながらも頂上に立ったことはない。高校日本代表やU20日本代表の経験はあっても、優勝の喜びやファイナリストの高揚感は今季になって味わうまで無縁だった。だから人生で初めて経験する決勝の舞台を控え、「ワクワクしています」。1月28日で23歳になる。日本代表PRの畠山健介をリザーブに3番を背負うことについて「その責任は感じますが、気負わず自分らしくやりたい」と話す。
「パナソニックにもセットプレーで圧力をかけたいですね。自分は、そこを一番期待してもらっていると思いますし。ブレイクダウンでもプレッシャーをかけて球出しを遅くさせたいですね。あちらのBKを自由にさせてはいけないと思うので」
 29失点した先週の帝京大戦(54-29)を「コミュニケーションが足りなかった」と振り返る。
「その反省、修正は、この1週間でできました。いい準備ができたと思います」
 自信を持って決戦に挑む。
 
 小さいけれど鍛え上げられた肉体は、若い頃からトレーニングに励んで得たものだ。自分より大きな相手にコンタクトスポーツで勝とうと思うなら、道はひとつだ。怪我を怖れたり、怪我してピッチに立てないのなら勝負にならないから、高校時代から周囲よりひとつ上の意識を持ってウエートトレーニングに取り組んだ。筋肉で固めた下肢は、スクワット等で作り上げたものだ。
 それでも大学時は首のヘルニアで3年時の終わりに手術を受けた。その影響で4年生のときは1試合も出場できなかった。悔しくて、体がうずうずして、チームが大学選手権の準決勝(2016年1月2日)で敗退した後、すぐにサンゴリアスのクラブハウスに通い始めた。トレーニングとリハビリの日々が始まった。
「ちょうど1年前の1月でした。そこから積み重ねてきました」
 今季の飛躍について「予想していた以上」と頬を緩めるけれど、それだけのことをしてきた自負もある。
 
 今季あらためてスクラムを進化させることができたサンゴリアス。そのきっかけのひとつとなったのが、エディー・ジョーンズ体制時に日本代表でコーチを務めていたマルク・ダルマゾ氏の指導を開幕前に受けたことだった。須藤がルーキーイヤーからこのクラブのスクラムにうまく対応できた理由のひとつも、そこにある。
「U20代表の時からダルマゾさんに指導を受けていたので、その理論はおおよそ理解できていました。8人で。低く。その教えも付け加えて、チームとしてシーズンの中で作り上げていったのが現在のスクラムです。ヤマハ戦のファーストスクラムや、(優勝を決めた)神戸製鋼戦の自陣ゴール前でのピンチの時にいいスクラムを組めたのも、全員の意識が高まり、一致したからだと思います」
 シーズン終盤の勝負どころで、相手ボールをターンオーバーしたビッグスクラムをそう回想する。そして試合に出場する中で経験値を増やし、対応力が高まったことが自身の成長も呼んだと分析。今週末に対峙するパナソニックのPR稲垣啓太は日本を代表する1番も、「全員で対処していいスクラムを組みたい」と話した。
 
 目標とするPRは元フランス代表PRのトマ・ドミンゴ。「高校時代、世界の強豪国の中で自分と同じサイズの人がいないかな、と探したんです。で、その人のプレーを見て、参考にしようと思った」と、その理由を語る。
 トリコロールのジャージーを着て36キャップ(2009年〜2014年)を重ねたフロントローは、173?、108?と、自分とほぼ同じ。同国出身のダルマゾ・コーチに彼の印象を尋ねると「真面目で一つひとつのプレーを全力でプレーする男」と教えてくれたことがある。思った通りの人物。目指してきてよかった。
 社業では、台東区エリアを担当する営業マンとしても活躍する。人生初めての頂点に立ったらプレミアムモルツで祝杯をあげたいな。
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