ラグビーリパブリック

初めて九州から出て戦った。玖珠クラブ、大敗にも80分楽しみ、向上心高まる。

2017.01.23
タックラーを引きずって走る玖珠クラブFL魚返秀司郎。(撮影/松本かおり)
 どこにしよう。あそこにしよう。戦いを終えた後、記念の写真を撮影する場所を探して決めた。
 熊谷ラグビー場名物の給水塔が見える場所にみんなで並んだ。両手の指で『8』を表わす選手たちが何人もいた。
 誰かが「帝京、帝京!」と8連覇の大学王者の名を叫ぶと、「ベスト8。全国ベスト8だよ」の声が飛ぶ。まだ額に汗が浮かんだ男たちがドッと沸いた。
 1月22日、名物の赤城おろしは吹かずに暖かかった。熊谷ラグビー場でおこなわれた全国クラブ大会の2回戦、北海道バーバリアンズ×玖珠(くす)クラブ。試合は前年準優勝の前者が89-7と大勝も、敗れた側にとっても楽しめた午後だった。
 初めての全国大会。1月9日に鳥栖・ベストアメニティスタジアムでおこなわれた1回戦、岡山クラブ戦で42-26と勝って初出場初勝利を手に入れた玖珠クラブ。その勢いでこの日も強敵に立ち向かうも…背中は遠かった。それでも試合後の表情が明るかったのは、このクラブが新たなステージに踏み出したことを全員が感じたからだ。新たな目標ができたのが嬉しかった。
 抵抗できる時間がまったくなければ、そんな感覚も湧かなかった。しかし前半キックオフ後の10数分間、黒いジャージーはバーバリアンズ陣に居座り、何度かトライラインに迫った。ブレイクダウンへの激しい突っ込み。タックルを振り払って走る力強さ。積み重ねてきた鍛錬が伝わる時間だった。
 しかし前半12分、マイボールラインアウトを相手NO8、197?、101?のジョセ・セルに取られ、そのまま50m超を走り切られる。その後、トライを奪われる間隔が少しずつ短くなって前半0-47。後半開始の20分は1トライだけに抑え、さらにWTB穴井智和がインゴールに入る時間もあったが(後半18分)、最終的には計13失トライ、89失点の完敗だった。それでも前半10分と後半20分、試合前とハーフタイムに統一した意志をパフォーマンスに反映できたことは自信になった。
 玖珠クラブは大分県で活動している。玖珠郡(玖珠町、九重町)と日田市出身のメンバーを中心に20代から40代までの約40名。平日の夜に週2回練習し、週末に試合などの活動をおこなっている。
 地域にある高校は、2015年に開校した玖珠美山高校だけ。しかし、前身の玖珠農業高校、森高校の卒業生が半数近くいてチームワークは抜群だ。そこに他の仲間も加わって、クラブメンバーの輪と和は大きくなった。創部は約60年前と古く、長く県民大会を舞台にプレーしていたけれど「どうせやるなら」の心意気を持つ者が増えた10年ほど前から上を目指す風が吹いた。そして2016年度、初めて参戦できた九州トップクラブリーグで3位に。たどり着いた舞台が全国クラブ大会だった。
 この日4番を背負ったLO藤原祐樹主将は、森高校でラグビーを始め、大分市内の吉四六クラブ、大分大学でラグビーを続け、地元のクラブに戻ってきた。大分市内の小学校に勤務しており、練習に通うのに車で片道90分。仕事を終えた後に故郷へ向けて車を走らせ、練習に駆けつけている。
「介護の仕事をしている人や自衛隊の人、自営業に公務員。いろんな仕事に就いている人がいるクラブです。そこに在籍していること自体が、人生を豊かにしてくれています」
 キャプテンは、この日の試合を振り返って言った。
「相手のノッてきたときの攻撃にデイフェンスで前に出られず止め切れなくなりましたし、高い修正力も感じました。だけどスコアには残りませんが、自分たちの長所を出せるシーンもありました。ディフェンスで前に出たときにはチャンスもつかめたし、序盤に攻め込めたときにスコアできていたら、また違った戦いができたかもしれません」
 そして何より、これまで体感したことがなかったレベルとぶつかり合い、新たな目標を見つけたと全員が感じたことが嬉しかった。
「九州の外に出ての試合は初めて。そんなチームです。だから、すべてがいい刺激になりました。また、ここに戻ってきたい。何が足りないかも分かったと思うので、これからの取り組み方も変わってくると思います」
 チームは前日、飛行機で羽田空港に到着後、思い思いに東京各地を観光した。キャプテンは「最後になるかもしれないから」と築地に向かい、海鮮丼を食べた。その後は大宮に宿泊し、試合当日、熊谷へ。試合が終われば翌日からの仕事に備え、すぐに帰路についた。
 グラウンドには、関東に住む玖珠周辺の人たちが何人か応援に駆けつけた。中には、「50年前に森高校を卒業した」という人も。試合後、メンバーたちはその人たちの前に並んで感謝の気持ちを伝えると、キャプテンが代表して声を出した。
「きょうは、ありがとうございました。自分たちのラグビーを少しは見せることはできたと思いますが足りませんでした。また、絶対ここに戻ってきます。これからも応援よろしくお願いします」
 10人前後の応援者から拍手が起こった。誰もが両手を強く叩いていた。メンバーたちは、また応援者が増えた実感を得た。
 さらに強くなるエネルギーを得たクラブは、多くの刺激を感じて2万5000人ほどが住む町へ戻った。全員が、すぐに走り始めたくてうずうずしているかも。

戦いのあと、熊谷ラグビー場らしい場所でパチリ。(撮影/松本かおり)
■全国クラブ大会2回戦の結果
六甲クラブ 55-40 オールカマーズ
タマリバ 73-13 文の里
RKU 66-5 かぶと虫
北海道バーバリアンズ 89-7 玖珠クラブ
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