この国のラグビーシーズンを締めくくる日本選手権が1月21日、開幕。大阪・東大阪市花園ラグビー場での準決勝第1試合には、国内最高峰トップリーグ(TL)で2位だったヤマハが登場。右PRの伊藤平一郎ら日本代表勢が先頭に立ち、スクラムでの圧倒を期す。
チームは、FW陣が8対8で押すスクラムを強化ポイントとする。就任6年目の長谷川慎FWコーチは、8人一体型のスタイルを選手たちに落とし込んできた。
最前列で組むフロントロー(両PR、HO)が身体の側面を密着させ、相手のフロントローのつけ入るスキを与えない。その3人を、後ろの選手が低い姿勢で押し込む…。2014年度は、クラブ史上初めて日本選手権を制覇。今季のTLでも開幕12連勝を決め、16チーム中2位となった。
ファンの記憶に残るのは、2016年8月26日のTL開幕節(東京・秩父宮ラグビー場)だろう。
ヤマハの強固な塊が、3連覇中のパナソニックを苦しめた。試合中にあった自軍ボールスクラムでは、12本中9本で相手の反則を誘発。後半8分には敵陣ゴール前の1本でペナルティトライを奪い、24−21で白星を得た。昨年の日本代表で主将だったパナソニックのHO、堀江翔太主将は、敗因に「スクラム」の4文字を挙げた。
先発した伊藤はほほを緩めた。
「まずはヤマハスタイルを出すのはスクラムから。ヤマハの3番(右PR)としての責任で、負けたくない、と。8人で勝ったという感じです。(意識したのは)自分たちの高さ、塊、ですね」
今季13試合に出場した伊藤は、身長175センチ、体重115キロの26歳だ。
早大を経て入社した2013年度はHOだったが、14年秋から現職へ転向した。新しい働き場でヤマハのスクラムを組み切るべく、基盤の身体作りに着手。ボディービルダーでもある井野川基知ストレングスコーチの指導のもと、約3か月間の特別強化計画に没頭した。
当初は105キロほどだった体重を、10キロもアップさせた。
「肩、背中と、上半身をひたすら鍛えて…。手が上がらなくてシャンプーができないくらいまで! きつかったですけど、自分にとってはプラスでした。あの3か月がなかったら、あんな(手応えのある)スクラムは組めていないので」
TLでの猛プッシュは、日本代表のジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチにも認められた。10月10日、東京・辰巳の森ラグビー練習場。候補合宿に参加し、「レベルアップにつながる、いい経験です」と話したものだ。
左PRの仲谷聖史、山本幸輝、HOの日野剛志といったヤマハのフロントロー3名とともに、10月31日からのツアーにも参加した(ヤマハからは他にFLの三村勇飛丸、ヘル ウヴェ、SHの矢富勇毅=途中離脱も選出)。
「ヤマハと言えばスクラム。そこでしっかりアピールして、フィールド(セットプレー以外の場所)でも活躍できればと思っています」
その意志を貫き、4キャップ(国際真剣勝負への出場数)を記録。帰国後もTLで奮闘し、リーグ戦のベストフィフティーンを初受賞した。
国内シーズン終了後は日本のサンウルブズへ帯同し、国際リーグのスーパーラグビーへも挑むこととなっている。一気に、世界を視野に入れる。
シーズン中には、右PRへの転向を勧めた長谷川コーチへの感謝の言葉も述べる。
「そこ(右PR)を見出してくれたのは慎さん。感謝していますし、ここまで来られたのも慎さんのおかげ。すごいことをさせていただいたな、と思います」
日本選手権準決勝第1試合では、TLの開幕節でぶつかったパナソニックと再戦。ヤマハの英知を結集させた右PRとして、伊藤平一郎がスクラムを押す。
(文:向 風見也)