ヘッドコーチのアファ(ハニパリ)が宙に舞った。キャプテンのLO加藤一希も仲間の手で放り上げられて気持ちよさそうだった。青空の下、歓喜の輪はしばらく解けなかった。
1月6日に名古屋・パロマ瑞穗ラグビー場でおこなわれた全国地区対抗大学大会の決勝戦は好ゲームとなった。中部大は強力FWがよく前に出て7トライ、41点。鹿児島大はディフェンスからチャンスを作って29点を奪った。互いが力を出し合った。中部大にとっては嬉しい初タイトルだ。
先手は鹿児島大がとった。立ち上がりに全員で集中し、防御からつかんだ好機を活かす。CTB保田一企がビッグゲインした攻撃をWTB久津輪宗一郎が決めて先制トライ。その6分後には同点に追いつかれるも、セブンズ日本代表に選ばれて成長のスピードをはやめたSO中尾隼太の仕掛けも効いて、12分、14分とトライを重ねた。開始15分で19−7とリードを奪う好調な滑り出しだった。
「序盤は思い通り」
司令塔は、自分の判断に反応良く動いて相手防御を崩した仲間の動きに満足だった。
しかし、臙脂のジャージーが攻守両面で前に出る頻度は少しずつ低くなっていった。中部大が自分たちの強みであるパワフルなFWを徹底して使ってきたからだ。白いジャージーの圧力は、先にリードした側の体力を徐々に奪っていった。前半17分にムチムチした体のFL牛丸直樹がインゴールに弾む。25分にはスクラムで押し込んでおいて、アウトサイドのWTB鵜飼隼多を走らせた。ハーフタイムは19−19で迎えた。
後半に入っても鹿児島大はよく守ったのだが、タックルで前に出られなくなっていったから防御の時間が長くなった。
前半11分、中部大は中央スクラムから右タッチライン際まで攻めておいて、振り戻しの攻撃でLO加藤主将がタテ。勝ち越しトライを奪った。後半16分にはSH三上洸矢が密集サイドを抜けて50メートルを走る。その5分後にはキックを蹴り合った後、CTB岡本蓮次郎がラインブレイクして36−19。残り20分弱で17点差となり、勝負はほぼ決した。
ヘッドコーチは、「みんな初めてのファイナルで最初は緊張していたけど、後半はやってくれると信じていました」。アメリカン・サモア生まれのニュージーランダーは、「今晩はパーティーね」とニコニコだった。
同コーチがチームの指揮を執って6年目。オンとオフを大事にするチームは、グラウンドに入ると集中し、楕円球を追う時間を終えると学生生活を仲間と楽しむ。ニュージーランドへの短期留学も経験し、ヘッドコーチとは春日丘高校時代から長い付き合いとなる加藤主将が、チームの大切にしてきたものをこう言った。
「あちら(NZ)に行って感じたのは、ラグビーのことを忘れる時間も大切だということでした。だからこそ、ピッチに立てば集中力高くプレーできる」
このクラブは何かあれば、節目の飲み会を開く。チームビルディングの一環だ。そうやってチーム内のコミュニケーションは高まった。大学選手権出場を狙っていた今季、東海学生リーグで5位に終わってその目標は達成できなかったけれど、キャプテンの「切り替えてタイトルを狙おう。来季につなげよう」という思いが伝わって、この午後の歓喜を迎えることができた。
「よくやったぞ」
「カダイ(鹿大)いいぞ」
試合直後、力を出し切ってヘトヘトになりながらもラスト10分強で2トライを返した臙脂のジャージーに観客席から多くの声が飛んだ。
トライを挙げるたびに賑やかだった中部大の控え部員たちも、表彰式に臨む仲間たちに大きな歓声と多くの笑顔を届けた。
観客数523。その全員が楽しめる内容の80分だった。