1月2日、「第53回全国大学ラグビー選手権大会」は準決勝2試合がおこなわれた。
まずは打倒・帝京大をかかげる東海大が74−12という大差で関西の雄・同志社大を退けた。8連覇と日本選手権優勝を狙う王者・帝京大も関西大学Aリーグ優勝の天理大を42−24で倒した。
決勝戦(1月9日)は昨年度と同じ帝京大×東海大の組み合わせになった。
両校には、密かに決勝で対戦することを4年間話し合ってきた選手2人がいた。帝京大LO金嶺志(きむ・りょんじ)と東海大LO李昇剛(り・すんがん)だ。大学で初めての公式戦対決は最後ともなる試合。
2人は東京朝鮮高校の同級生。同じポジションでスクラムを組み、ラインアウトを作り、切磋琢磨した仲だ。高校時代は2012年度全国大会東京第2地区予選の準決勝で目黒学院に17−28と敗れ、花園行きはならなかった。
そして大学に入ると対象的な立場となった。U20日本代表に選ばれて競争が厳しい帝京大でも先発メンバーで試合に登場した嶺志。一方、昇剛は下積みの時代を経てこつこつと努力し先発メンバーを勝ち取って来た。嶺志は語る。「昇剛は自分にないボディバランス、スピードを持っている。大学に入った時から大学選手権に出場して戦おうと話していた」
2人が入学後、大学選手権で両校が対戦したのは昨年度の決勝戦(帝京 27−17 東海)のみ。この試合、嶺志は5番を背負い7連覇に貢献したが、昇剛はメンバー入りも無かった。
「嶺志は大学の最初から試合に出続けてきた。自分はいつかはという気持ちで練習してきました。やっと4年生になって戦えるチャンスが巡って来た。すごく楽しい」(昇剛)
準決勝でもLOとして体が小さい分(身長183センチ)、チームから求められる確実なディフェンス、ラインアウトジャンパーに徹した。後半14分には自陣からのアタックをサポートし、左ライン際でパスを受け取るとSH湯本睦へラストパスを送った。
嶺志は4年になり5番とリザーブ19番を行き来している。準決勝は19番、後半25分に登場した。3分後、天理大が自陣ゴール前でノックオンしたボールを帝京大が奪い、ゴール前でラックを形成。嶺志に回り、トライラインを越えた。天理大に2連続トライを奪われ35−17という嫌な雰囲気の中、突き放した(ゴール成功で42−17)。
「相手がペースをつかんでいたので自分が出たらペースを変えるビッグプレーをしようと思っていた。前にスペースがあいていたので狙っていました」(嶺志)と会心のトライだった。
2人は他の在日選手たちの期待や思いも背負う。帝京大には嶺志の他に東京朝高8人、大阪朝高3人のOBがいる。東海大には大阪朝高5人だ。さらに東海大が準決勝で制した同志社大には大阪朝高5人。左PR(1番)で趙隆泰(ちょう・りゅんて)が先発した。趙は「東海のレベルが高かった」と完敗を認める。大阪朝高ではNO8、花園に出場し3年次には3回戦に進出した(24−37 茗渓学園)。卒業後は関西学院大志望もかなわず、当時、呉英吉(お・よんぎる)監督の紹介で同志社大入りした。「呉先生の恩を感じています。見ていて楽しい同大ラグビーの4年間は良かった。NTTドコモ(レッドハリケーンズ)に進みますが、ここでも同大ラグビーを続けていきたい」
同じく東海大が準々決勝で71−12と大勝した京都産業大には7人。FL7番はU20、ジュニア・ジャパンでも活躍した李智栄(り・ちよん)。隆泰とともに大阪朝高で花園へ行き、大学で実力をつけた。「昇剛には、頑張り日本一になって欲しい」。智栄もドコモへ進み、4年ぶりに隆泰とチームメートになる。隆泰は「高校時代は智栄に頼ってきたが、今度はライバルとして一緒にやっていきたい」。2人とも「日本代表、サンウルブズを目指します。在日のラグビー界や応援してくれる人たちに応えていきたい」と言葉をそろえる。
決勝戦で対戦する2人は決意を語る。
「去年、帝京に負けて1年間、倒して日本一になるために努力してきた。2人の対戦を在日関係者も楽しんで欲しい」(昇剛)
「2人が決勝の舞台で戦えることは光栄です。今年のチームで1年間やってきたことを出します」(嶺志)
ちなみに進路は異なる。昇剛は一般企業に就職し、ラグビーから当面、離れる。「機会があれば高麗クラブ(在日ラグビーマンたちが作るクラブ)でできたら」。嶺志は東芝ブレイブルーパスへ入る。東京朝高、帝京大の先輩LO李聖彰(り・そんちゃん)の後を追う。もちろん将来はドコモの2人と同じ日本代表を目指す。
(文:見明亨徳)
帝京大LO金嶺志(写真左)は準決勝で出場するなり止めのトライを奪った(撮影:見明亨徳)
大敗もやり尽した同志社大のPR趙隆泰(撮影:見明亨徳)
京産大FL李智栄はドコモで日本代表を目指す(撮影:見明亨徳)