神戸製鋼LO谷口到はFL安井龍太にパスを出そうとする
最終スコアは38−8だった。
12月25日、クリスマスに行われた「阪神ダービー」は大差がつく。
敗れた近鉄ライナーズのCTB森田尚希は対戦相手の神戸製鋼コベルコスティーラーズについて不思議そうに話す。
「強いのは強い。でもこんなに点数が空いているって、やっている最中には思えないんです。普通、30点も差がついていたらボロ負けじゃないですか。でもそんな感じはしないんですよ」
森田は先発出場。途中交代はない。一昨年、副将をつとめた30歳は続ける。
「ボーンとタックルに入っても、いなされるっていう感じですかねえ。当たり負けはしていないんだけど、そこでうまいこと、こちらの力を利用されて、さらにスピードを上げられるというか…」
森田が振り返るのは後半15分。神戸製鋼のCTBジャック・フーリーがタテに入る。タックルを上半身に受けるが、下がりながらオフロードで、後ろから走り込んで来たCTBトニシオ・バイフにボールを送る。バイフは加速してトライラインに迫った。
1分後にはPR山下裕史がインゴールに飛び込む。この日、チーム4トライ目。ボーナスポイントを確定させた。
後半22分には、金鳥スタジアムに「おおー」というどよめきが起こる。
走るCTB山中亮平が左についたFB山下楽平に約15メートルのロングパスを通す。乱戦の中、放物線の前後にはインターセプトを狙う近鉄選手がいた。ピンポイントでのボール渡しを4545人観衆の前で披露する。わずかに遅くても速くてもピンチになっていた。
山中は後半13分にはトライを挙げ、今シーズン2度目のマン・オブ・ザ・マッチに輝く。解説は淡々としていた。
「あれは通ると思って放りました。近鉄は詰めてくるディフェンスでしたが、その中でどれだけ持てて崩せるか、というのが大事です」
今シーズンの自分自身のパフォーマンスを聞かれ、答える。
「安定してきました。チームをコントロールできているんじゃないかと思います」
大阪・真住(ますみ)中学、東海大仰星高校時代は左右の長いパス、キックを操り、「天才」と騒がれた。早稲田大学を経て、神戸製鋼に入る。今シーズンはスーパーラグビー、サンウルブスにも呼ばれ、2試合に出場した。
本職はSOだが、CTBに入る時は体も当てに行く。28歳になり、そのプレーに正確性と責任感がにじむ。円熟味が出てきている。
「サンウルブスではCTBをやって視野が広がりました」
神戸製鋼ヘッドコーチのジム・マッケイは評価する。
「山中は好不調の波がなくなってきたね」
神戸製鋼には南アフリカ代表キャップ72のフーリーや日本代表キャップ7の山中に象徴されるスキルフルな選手たちがいる。森田の「いなされた」という感想は、近鉄が得意とするフィジカル、「力」ではなく、「技」で上を行かれたことを示している。
もちろん、神戸製鋼はコンタクト能力そのものの底上げも怠りない。今シーズンからヘッドS&C(ストレングス・アンド・コンディショニング)コーチに「バズ」の愛称で親しまれるバジル・カージスが就いた。
先発した左PR平島久照は話す。
「バズは試合に即したトレーニングをします。例えば『はいはい』の姿勢でグラウンドを這(は)ったりします。これは常に低くプレーをするためのものです」
四つん這いになって、緑芝のグラウンドの上を進むトレーニングは、日本代表キャップ42を持つ平島にとって、全体練習の中で取り組むのは初めてのことだ。
「ウエイトトレでもフルで曲げるように指導をされます」
ベンチプレスなども胸につくところまで下ろし、戻させる。負荷の増加は同時に効果を引き上げることを選手たちに伝えている。
この快勝で神戸製鋼は、前節12節(12月18日)、ヤマハ発動機ジュビロに15−33で敗れたショックを払しょくする。
マッケイヘッドコーチは笑顔だった。
「とてもよろこばしい内容でした。敗戦でチームをどう立て直すかが重要だった。選手たちを誇りに思います」
順位こそ前週の4位と変わらなかったが、ボーナスポイントを加え、勝ち点47とした。3位・パナソニックワイルドナイツを5点差で追いかける。3位までに与えられる第54回日本選手権の出場権獲得に望みをつなぐ。
一方の近鉄は不運があった。オーストラリア代表の経歴を持つCTBアンソニー・ファインガら外国籍選手5人のうち4人がケガで欠場。LOマイケル・ストーバークのみでは迫力に欠けた。リーグ戦は8連敗となり、順位、勝ち点ともに14。下位4チームに課せられた入替戦出場(最下位16位は自動降格)の可能性が高くなった。
トップリーグ創設の2003年度からスタートした「阪神ダービー」。近鉄は下部リーグ時代もあり、対戦がなかった時期もあったが、通算成績は神戸製鋼の8勝2敗となった。
(文:鎮勝也)
パスアウトする近鉄SH金哲元
ボールに殺到する両チームの選手