ラグビーリパブリック

転向間もない新人がSOに。東海大・眞野泰地の知性と負けん気とは。

2016.12.20

大学選手権準々決勝の京都産業大戦でボールを運ぶ東海大の眞野泰地(撮影:松本かおり)

 ラグビーの学生王者を決める大学選手権にあって、サプライズ人事があった。
 前年度準優勝の東海大が、司令塔のSOに眞野泰地を起用しているのだ。
 眞野は秋にこのポジションへ転向したばかりの1年生。抜擢の理由に関し、木村季由監督は「自分たちの目指す形に一番フィットしたメンバーを選んだということ」と説明する。組織的な防御を初の日本一への足掛かりとしたい集団にあって、もともとFLだった眞野の守備力を買う。
 身長171センチ、体重86キロと決して大柄ではないが、土井崇司・東海大テクニカルアドバイザーは「(グラウンド全体を観て)ボールをどこに振ったらいいのかなどを考えられる」。教え子の知性を称賛する。
 抜擢された本人も意欲的。持ち前の眼力で見抜いたスペースを攻略できるよう、パスやキックなどの正確性を高めたいという。
「難しいですけど、基礎のプレー(のレベルを)しっかり上げていきたい。(今後のポジションは)チームの事情などにもよるのでわからないですが、SOとして学んだことはFLにも活きると思う。いまできることを、しっかりやる。そんな感じです」
 大阪・東海大仰星の中、高に在籍。中学時代はSOだったが、高校に進むと接点で競り合うFLへ移った。本人の危機察知能力や激しいタックルを活かすこと、後に早大入りする岸岡智樹をSOでプレーさせることが目的とされた。
 果たして眞野は3年時、チームの主将として全国高校ラグビー選抜大会、全国高校7人制ラグビー大会、全国高校ラグビー大会で優勝。期待された防御のみならず、連続攻撃の際のパスの起点としても重宝された。湯浅大智監督からは、こんなふうに賛辞を贈られた。
「サイズが理由で高校日本代表に入れなかったら、僕の教え方が悪かったのかと思ってしまうほどです。気配り、目配り、心配りが素晴らしい」
 
 東海大入学後、チーム首脳からSO転向を打診される。20歳以下日本代表に参加した際の故障が癒えた8月頃から、その計画が本格スタートした。
 眞野が高校1年になる直前まで東海大仰星高を率いていた土井氏によれば、このコンバートは、本人の将来を見据えたプランでもあるという。
「岸岡(がボールを動かした場所)の反対側のサイドで、眞野がボールを動かすこともあった。タックルの強いSOはあまりいないので『SOへ行け』と」
 2016年11月26日、東京・秩父宮ラグビー場。眞野は控え選手同士の公式戦、関東大学ジュニア選手権のカテゴリー1決勝に先発。その試合運びに失敗し、帝京大に7−35で敗れた。
 
 しかし、成長にはこのような失敗体験も必要だったか。土井氏はこの後、知性とは別な眞野の魅力を再確認した。
 それは、反骨心だ。
「あの後、僕がボロカス言って。『もう、お前、失格や!』と。そうしたら本人は泣いていました。ただ、その後にあった保護者会で、『土井先生を見返す』と。あの涙、苦しんだ部分を、本当の肥やしにしていった。なかなか、そういう子はいない」
 どうやら眞野は、その折に指摘された点を精査。以後のトレーニングで改善を図ったようだ。力勝負で苦しむ時のための、正確なスキルを磨いた。
 ボールを左右に動かしながら、一転、ロングキックで確実にタッチラインを切る。そうすることで、前がかりになった相手を後方へ走らせる…。当時思い描いたそんなイメージを、本人は「コーナーを取れるように」という表現で説明した。
「帝京大戦ではいろいろ、ミスをして…。前に出られないなかで、自分の選択肢がなくなった。そんな時にチームをどう前に出すのかが課題になりました。それを修正して、見返せるようにしたいと思いました。フェーズのなかでコーナーを取れるように、と。あとは、パスミスをなくすようにもしました」
 12月17日、またも秩父宮。大学選手権準々決勝で京都産業大とぶつかる。東海大にとって大会初戦となったこの大一番が、眞野の主力組としてのデビュー戦だった。
 この午後の背番号10は、フェーズの合間に絶えず周囲と情報交換。効率よく空いたスペースを攻略するため、周りの声を参考にした。球を持てば、時に「潰れ役」として相手防御網へ突進。複数のタックラーを寄せることで、次のフェーズでの数的優位を演出した。
 結果、71−12のスコアで白星を挙げる。
「自分がボールを持つ前にいろいろな判断をしてくれるなど、周りの人が助けてくれた。そのおかげでプレーできた感じです。手詰まりになったら無理にボールを離さないでいいとも言われていたので、そういう時は自分でポイント(接点)を作りました。コミュニケーションを取り続けて、判断の間違いがないようにしていました」
 試合後の実感をこのように語る新人について、木村監督は「いい部分は出ている。これからは、周りが彼のプレーしやすい状況を作ってあげること」と述懐。土井氏も「きょうは、まぁまぁ」と合格点を与えた。
「高校3年間、まったくSOをやっていないことを考えると合格点です。ディフェンスもしっかりしているし、崩れない。後ろの選手が声をかけている部分もあるけれど、もともと、賢い子なので。『どうやった?』と聞いたら、『まだまだボールを運びたいところへ運べなかったし、裏のスペースが空いているのにふわふわなキックを蹴ってしまった』と。そういう冷静な目で試合中の自分のプレーを観ているんですから、たいしたものです」
 1月2日の準決勝では、同志社大と激突。この関門を潜り抜ければ、天理大か7連覇中の帝京大と決勝を戦う。秋は関東大学リーグ戦1部を制した東海大に、新人SOがサムシングを加えられるか。
「試合までの期間を大切にして、その間に上手くなる。それで、試合で経験を積めるようにしていきたいと思います」
(文:向 風見也)
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