今季の日本最高峰のラグビートップリーグではここまで5連敗中と苦しむ東芝に、頼れる人が戻ってきた。
日本代表として歴代最多の98キャップ(テストマッチ出場数)を誇るLOの大野均が、12月18日の第12節でリザーブ入り(対近鉄/大阪ヤンマースタジアム)。6戦ぶりの出場を目指す。
16日、東京都府中市の東芝グラウンド。実戦練習で汗を流し、短く言った。
「勝ちに貢献したい。それだけですね」
常に優勝を争ってきた強豪は今シーズン、ここまで通算7敗を喫している。年間強化計画の変革、国際リーグのスーパーラグビーへの主力選手派遣など、複層的な理由が重なるなか低迷を余儀なくされたか。それでも、現場サイドは前を向く。冨岡鉄平ヘッドコーチも「(フォーカスポイントは)姿勢」と話している。
「こういう時にどうポジティブに戦えるか。負けているチームは苦しいんです。そんななか、どれだけ強い気持ちで臨めるか。それを80分間、やり切れるか…。責任を取るのは僕ですから、その点は逃げずにやってきた。この時間は、無駄にしたくないですね」
大野は長らく、戦線離脱していた。
苦しむチーム状況下で、出場は10月9日の第6節(対ホンダ/福島・いわきグリーンフィールド/〇31−12)、ベンチ入りは10月23日の第8節(対リコー/広島・コカ・コーラウエスト広島スタジアム/●28−33)が最後となった。
左ふくらはぎに肉離れを起こしたためだったが、12月になると「ほぼ100パーセント(の状態)に戻ってきました。怪我をする前よりも状態はいい。ある意味、ラグビーに飢えています」ときっぱりと言う。
いったい、白星から遠ざかる仲間たちをどう見つめていたのか。
「もどかしい、ですね。チームが弱いメンタルを持って負けていたわけではない。いい準備をしていたのも観ていたし、それで勝てないのが、もどかしかったです。(自身は)まず怪我を治すことが先決だと思いながらやっていました。グラウンドに戻れないことには貢献できないので」
身長192センチ、体重105キロ。骨惜しみない動きでチームメイトやファンの心をつかんできた。38歳の誕生日を迎えた今季は、トップリーグの開幕前に日本のサンウルブズへ入ってスーパーラグビーに参戦。6月には日本代表としてスコットランド代表戦に出場するなど、身体にむちを打ってきた。
似たようなスケジュールをこなしてきた国際クラスの選手には、心身の蓄積疲労を訴える人もゼロではない。しかし大野は、自分に言い聞かせるように「スーパーラグビーに参加できる。フレッシュな気持ちになれる」と強調。2017年度のサンウルブズ入りも表明し、いまはこんな意思を伝えるのである。
「まず、優勝はできなくとも東芝でいいシーズンを過ごして、気持ちを切り替えてサンウルブズへ…。身体の疲れどうこうというのは、やりながらどうにかするしかないです。それを言っていたらスーパーラグビーはプレーできないので」
昨秋のワールドカップイングランド大会では、10月3日のサモア代表戦(ミルトンキーンズ・スタジアムmk/〇26−5)の前半終了間際に肉離れを起こす。長年の経験から「もう、次の試合に出られないだろう」と感じ、患部が悪化するのを覚悟してハーフタイムまで走り切った。WTBの山田章仁(パナソニック)がトライを決める直前の密集で、相手を引きはがしていた。
苦しみを苦しみと思わぬよう駆けてきた大野のワンプレーが、連敗を止められるか。
(文:向 風見也)