学生ラグビー王者を決める大学選手権の準々決勝が12月17日、各地であり、7連覇中の帝京大が10季連続の4強入りを決めた。東京・秩父宮ラグビー場で、大東大を55−19で圧倒。FBを務める3年の尾崎晟也は、「ターゲット(優勝)に向けては準決勝、決勝とありますが、まずは準決勝を全力で勝ちに行きたい」と先を見据えた。
対する大東大は、関東大学リーグ戦1部3位のチームとして3回戦から登場。SHの小山大輝やWTBのホセア・サウマキら強力ランナーを多く擁し、鋭い出足の守備にも注力してきた。前年度の準決勝で帝京大とぶつかった際は、33−68と敗北も破壊力を示した(秩父宮)。
かたや関東大学対抗戦Aで1位だった帝京大は、今年度のレギュレーションに伴い選手権参加はこの日からだった。「初戦」の緊張感はあったか。FLの亀井亮依主将がこう振り返る。
「アップの時、少し硬さはあったと感じました。それを意識して(周りへ)声掛けはしていたのですが、(序盤は)コミュニケーションミスなどがあったかと思います」
先手を打ったのは大東大だ。前半5分に小山がインゴールへ駆け抜けるなどし、得点板が「0−7」と光る。さらに追加点が生まれそうだったのが、前半11分頃だった。
連続攻撃で前に出る大東大が、敵陣22メートル線付近でサウマキへパスをつなぐ。身長187センチ、体重100キロのリーグ戦トライ王は、勢いに乗って左タッチライン際を快走する。スコアは目の前だった。
しかし、帝京大の尾崎がこの流れを断った。
立ち位置のグラウンド最後尾からカバーに回り、インゴールの手前でサウマキのランコースを捉える。自分よりも13センチ、15キロも大きな相手の足元へ突き刺さり、タッチラインの外へ押し出したのだった。
「ちょっと(芯を)ずらされていましたけど…。もう、あそこが相手のアタックのキーになると思っていた。ゲーム中は、常にその危険を予測しながらプレーしていました。キーマンを抑えながらディフェンスを…。そこを徹底的にやっていました(準備していた)」
自らのタックルをこう振り返る尾崎に対し、サウマキはただただ唇を噛んだ。
「あれは自分の好きなプレーだったのですが、(タックルが)足に…。残念です」
逆転のきっかけも尾崎が作った。自陣22メートルエリア右中間でパスを受けると、目の前の防御の並びを見定める。右大外へ膨らむようなランを繰り出し、自分の周りへ防御が寄ったと見ればさらに右側へパスを放った。
ハーフ線付近まで陣地を戻すと、帝京大は自前の陣形を象りフェーズを重ねる。敵陣22メートル線付近左中間で大東大の反則を誘い、20分、ラインアウトからのモールで勝ち越しトライを奪った。ゴールも決まり、スコアは10−7。
ここからチャンプは徐々にギアを入れ、密集戦を制しながら終始リードを保った。亀井主将が「序盤、課題が見受けられました。ただ、チームとしてしっかりとコミュニケーションを取った。強みのディフェンスからもチャンスを作れた。そこはいい自信になったと思います」と話すかたわら、尾崎は例の好走とこの日の試合をこう語った。
「アウトサイドにスペースがあったのは見えていて、そこを攻めようという共通認識があった。そんななか、自分の得意とする間合いでボールをもらえたので、仕掛けて、(パスを)離しました」
他会場などの結果により、1月2日に秩父宮である準決勝のカードが決まった。帝京大は関西大学Aリーグ・1位の天理大と激突。FL亀井主将は「天理大は(FBジョシュア・ケレビら)留学生のキーマンを使ってチャンスを作る印象です。帝京大はいい準備をして、いいコンディションを整えて臨む」と話す。
迎えているのは、1度の敗戦でシーズン終了が決まるトーナメント戦のクライマックスだ。来季以降のリーダー候補とされる尾崎も、淡々と気を引き締める。
「特別何かをやろうとは思わず、自分たちの積み上げたものを信じて取り組む。『準決勝だから』と変にあがったりせず、これまで継続したことをする…(と考える)。その方が、自分としても落ち着いてゲームに臨めます」
(文:向 風見也)