「7人制では、その日になればどのチームにも勝てるチャンスがある。そのためにはボールを動かすこと。たくさんのフレアーを出せるようにトレーニングしてきている」
そのプレーにダミアン・カラウナHC(ヘッドコーチ)が作り上げようとしているジャパニーズフレアーの究極型が垣間見えた気がした。
HSBCワールドラグビーセブンズシリーズ2016−2017の開幕シリーズであるドバイ大会。
リオ五輪経験者ゼロ。トップリーガーはわずかに2人(鶴ヶ?好昭主将、小澤大)で、その2人も含めて、過去にワールドシリーズでプレー経験があるのは3人のみ(前記2人+ジェイミー・ヘンリー)。五輪でニュージーランドを破り、4位になった瀬川智広前HCがつくり上げたチームとは、スタッフも選手も、そして戦い方も全く異なるチームとして、常夏の砂漠の中にあるザ・セブンズ競技場に乗り込んだ新生・カラウナジャパン。
プールDでの初戦の相手は昨季総合4位の豪州だった。
7−19とリードされていた後半4分。自陣10メートル付近のスクラムから攻め始めた日本は内側のスペースをアタックした後、パトリック・ステインが右サイドで待っていたレオン・エリソンへキックパス。ボールを受け取ったエリソンがタッチライン際を前進しながら、グラウンド中央を確認すると、そこには相手のDFラインの後ろのスペースを意識してスピードを上げた小澤の姿が。今季のトップイーストリーグで計82得点を稼ぎ出したエリソンの右足から蹴り出されたキックは、実に正確な軌道を描いてゴールポスト下へ。豪州DFに走り勝った小澤がスピードを落とさずにバウンドしたボールを手に収めてグランディング。
「サインは全然なくて、ホント自由な感じ。各自の判断にみんなで反応する」
鶴ヶ?主将がそう説明するフレアー感が前面に出た衝撃なトライで流れは一気に日本へ。ドバイのザ・セブンズ競技場特有と言っていい巨大な仮設観客席にもアップセットを予感するざわめきが広がった。
明らかに慌てだした豪州は直後のキックオフでのノックオンの後、スクラムからの飛び出しが早くオフサイドの反則。この時点で残り時間は1分を切り、日本はPKから豪州陣深くへタッチキックを蹴り出し、勝負を賭けたラインアウトへ。
間違いなく、勝利の女神は日本に顔は向けていただろう。ただ、この試合が正真正銘の世界での初戦だった新チームは、こちらを向いた女神を笑わせる術を持ち合わせていなかった。
この1戦目ではまだそれほど明らかになっていなかったが、準備期間が1週間しかなかった日本は「練習してない」(鶴ヶ?主将)というセットプレーの準備がまったく整っておらず、このラインアウトでもタイミングがズレた結果、その後のパスが乱れて、最終的にはアタックを構築する前にノックオン。
あっという間に女神はいなくなった。
大会開幕まで1か月を切った11月10日にカラウナHCの就任が発表され、1週間にわたる選考合宿を経て(トップイースト組の海外出身選手などは途中参加)、遠征メンバーが決まったのはまさしくドバイへ旅立つ2日前。日本での直前合宿中は雪模様だったのが、現地ドバイは当然のように毎日30℃超。
リオ五輪直前まで瀬川ジャパンの合宿に参加していたヘンリーでさえ、「まだ、セブンズのフィットネスはあまりない」と認めざるを得なかったコンディションを考えてみても、「新しい選手も多いが、大事なポジションにはキープレーヤーたちが残っている継続性もあるし、その一方でエキサイティングな若い選手もいる」とカラウナHCが分析していた豪州に対して、前述のような準備状況の日本が競った試合をすることを試合前に予想するのは正直難しかった。
「勝てた。オフロードとかラックの回数を減らして、きれいな形でトライまで運ぶという、やろうとしているラグビーできた。今までのジャパンのアタックスタイルとは全然違うラグビー。それが、うまくファーストゲームにして出せた。日本は簡単なミスあったら世界に勝てない。キャッチングミス、パスミス。改めて感じた。そこができていたら、絶対勝てていた。若い選手たちにはすごい自信になったはず」
豪州戦の後、鶴ヶ?主将はそう総括していたが、結局、世界ベスト4を追い詰めながらも金星に届かなかった原因の部分が最後まで修正されることはなかった。
対 ケニア ●7−17
対 フランス ●0−35
対 アルゼンチン ●14−31
対 ウガンダ ●19−26
3トライ取りながらも、キックオフを取れずにそのままトライまで持っていかれることを繰り返しての4トライ献上で敗れたドバイでの日本のラストゲームに象徴されているように、準備期間もなく、経験もない新チームのセットプレーの精度が急に改善するはずもなく、その一方でカラウナHCは「準備は1週間だけだったが、それでも彼らはラグビープレーヤー。タックルの仕方は知っているはず。もちろん、テクニックの問題もあるが、それよりもタックルをしたいのかどうか」とディフェンスにおける根本的な問題点を指摘。
「どんなことをしてでも勝つ、という気持ち。勝ちたいという気持ちは一番ディフェンス力に出る」
ワールドシリーズを知る小澤がそう指摘する「気持ちの弱さ=ディフェンス力のなさ」がドバイで勝ち星を挙げられなかった要因だったことは確かだろう。
それでも、7人制とも世界大会とも無縁のラグビー人生を送ってきた“無印”の大学生たちと、トップイーストでプレーしている海外出身選手が中心のカラウナジャパンというチームは、まだ始まったばかり。
「試合を重ねていくことで試合前も緊張しなくなったし、自分のプレーができるようになった。自分がボールもらって、仕掛けようと意識しながらプレーして、成長した自覚もある」(流通経済大2年・韓尊文=5試合中4試合で先発出場)
いきなり、日本での大舞台を素通りして世界のトップステージに躍り出た大学生たちもそんなふうに大会の中での成長に手応えを感じている。
すでに、ドバイでの戦いを終えた時点でカラウナHCは10、11日に控える南アフリカ大会までは「ディフェンスを鍛える」と宣言。
ウガンダ戦の後の円陣で鬼の形相でタックルのダメさ加減を叱った同HCも、今大会でも十分感じさせた攻撃ポテンシャルに関しては、「アタックは目指す方向に進んでいる。戦い方の浸透の仕方は想像以上。そこはポジティブになっていい」。
「勝てなくて悔しいなというのはあるが、みんなよくやってくれた。若いメンバーが多くてエナジーがあった。純粋に楽しかった。このチームは1勝したら、きっといい流れになると思う」(鶴ヶ?主将)
いきなり、フレアー感抜群のアタックポテンシャルを見せたドバイの後だけに、ケープタウンで課題を修正しての白星が得られた時、世界ではもちろん、日本でも無名な選手たちの集団の成長度は一気に加速していくことになりそうだ。
(文:出村謙知)