11月27日、東京・秩父宮ラグビー場。関東大学ラグビーリーグ戦1部の最終戦で、東海大と流経大が激突した。26−26の同点で迎えた後半ロスタイム45分。攻守逆転が繰り返され、スタンドは沸いた。
まずは、東海大のNO8であるテビタ・タタフだ。流経大が猛攻を仕掛けた東海大陣22メートル線上の接点へ、身体を差し込む。ボールを強奪する。
8チーム中で唯一の6戦全勝チームだった東海大は、引き分けでも優勝を決められた。それでも、勝ち越しを目指した。アタックした。
結果、ハーフライン付近右で流経大守備網に囲まれる。ここで球を獲られたのは、タタフと同じ2年でWTBのアタアタ・モエアキオラだった。
この日は後半12分から登場して13分、29分とトライを挙げて「絶対にトライを取っていい流れにしたかった。そのトライが取れてよかった」と安堵したモエアキオラだったが、最後のプレーをただただ後悔した。
パスをもらう直前の様子を思い出し、「あそこは…悔しいです」と言った。
「ボールをいいスピードでもらえず、(その場で)止まってしまって…」
ここまで大東大に敗れて5勝1敗だった流経大にあって、FLの廣瀬直幸主将は「東海大にどれだけ勝負できるかにこだわる」。4位以上のチームが進める大学選手権に向け、こう考えていた。
「自分たちのすることにどれだけフォーカスできるか。それが、この先に勝っていけるかどうかへつながっていく」
最後の攻撃。東海大陣10メートル線付近まで進んだところで、東海大が反則を犯す。接点の後ろを回り込む前にタックルを仕掛けた選手が、オフサイドと判定されたのだ。ペナルティキックを獲得した。
同会場での第1試合では、大東大が中大に64−21で勝利。6勝1敗でシーズンを終えていた。ここで流経大が東海大に勝てば、東海大、流経大、大東大の3チームが6勝1敗の勝点25で並ぶ。3チーム間の序列を決める「当該対戦校同士の得失点差」で流経大が抜きんでるには、14点差以上での白星がマストだった。
廣瀬もSOの東郷太朗丸も、流経大の主力格は、そんな逆転優勝への条件を把握していた。ただ、最終局面では「取りあえず勝ちを優先する」と東郷。ペナルティゴールによる3点を追加し、29−26のスコアでノーサイドを迎えた。
3校間の得失点差を「+18」とした東海大は2年連続7度目の優勝を決め、「−3」の流経大が2位に浮上。「−15」の大東大が3位となった。
決勝ゴールを決めた東郷は、こうも続ける。
「タフなゲームになるのはわかっていた。14点差で優勝することも知っていましたけど、そんな簡単に進むはずがない、と。ゴールは、チームの総意です」
文句なしの全勝優勝を狙っていた東海大は、序盤からレフリングへの対処に泣いた。大外からせり上がる防御網は、接点より前で守備を始めていると見なされ「ラインオフサイド」を取られた。押し込まれた肉弾戦の周りでも、タックルを試みる選手の立ち位置が厳しくチェックされた。
前半終了間際に7−7の同点にされると、SH湯本睦ゲーム主将は平林泰三レフリーに見解を求めた。平林は、自分なりの見立てを整理して語った。後に湯本は振り返る。
「自分たちがどういうペナルティを取られているのかが理解できなかったので、コミュニケーションを取らせていただいた。タックラーの(オフサイドラインより後ろへの)帰り方が相手のボール出しの妨げになっているということだったので、次のプレーにつなげようと思いました。しかし…」
ハーフタイムを経ても同種の笛が吹かれ、後手を踏んだ。引き続き平林レフリーと対話を重ねた湯本ゲーム主将は「僕自身、リーダーとして規律を徹底させなくてはならなかった。コントロールができなかった」と悔やむほかない。
守勢に回るなか、何人かの選手はフラストレーションをためたか。故障で戦線離脱していたFLの磯辺裕太主将は、仲間の顔つきからそう察知した。
「レフリーと戦ってしまったかな、と、外から観ていて感じました。あそこは自分たちがやるべきことをやる時だった。いつも通りのプレーをすれば、もっともっとペナルティをなくせたと思います」
対する流経大は、水を得た魚だった。複層的な攻撃ラインを敷き、左右に球を振る。複数人のタックラーを引きつけては、その周囲へオフロードパスを放つ。
後半7分、東海大陣22メートル線付近左中間まで攻め上がると、東郷が防御の手薄だった左端へパス。受け手は、東郷の隣の隣の、そのまた隣に立っていたFLの粥塚諒だった。真っ直ぐ駆け上がり、WTBの當眞皐のトライを演出する。直後のゴール成功で14−7と勝ち越した。
続く11分、流経大が今度は東海大陣22メートル線付近右中間まで進む。左へ短いパスをつなげ、左端で巨漢CTBのシオネ・テアウパがラン。東海大のタックラーに囲まれながらもオフロードパスを繰り出し、LOの鶴田大成がゴールラインを飛び越えた。ゴール成功。21−7。優勝の条件である、14点差での勝利も見えてきた。
「14点差をつければ優勝というのは、もちろん知っていた。多少は意識したけど、それを言うとチームに悪影響が出る」
廣瀬主将は、緊張感の保持を最優先していた。かたや東郷は、目指していた攻撃のプランに確かな手ごたえをつかんでいた。
「シェイプ(陣形)の裏(奥側)と表(手前側)を相手にわからないように使っていけたら、と思っていました。スペースは見えていた。分析通りにやれたかな、と思います」
ここから東海大は、モエアキオラの単発での走りもあって26−19と接近。さらに38分には、防御で魅せたタタフがモエアキオラのパスを受け取って約60メートルを独走。26−26の同点に追いつくことができた。モエアキオラは言う。
「テビタが見えていた。とりあえずテビタにボールを渡せばイケると思った」
しかし、待っていたのは笑顔なき表彰式だった。優勝を逃した廣瀬主将が「大学選手権に向けていい経験になった。本当に勝ててよかったです」と話すなか、優勝した磯辺主将は「歯がゆいですね、歯がゆい…。自分がいたら…とも思います」と夜空を見上げた。
両者が出場を決めた大学選手権は、12月11日から本格化。関東、関西の強豪を軸に、優勝争いが繰り広げられる。
(文:向 風見也)