派手な活躍はなかったけれど、指揮官は最上級生の落ち着いたプレーを称えた。
14-0から7点差に迫られた直後、後半14分からピッチに立った。背番号22の4年生、中村良真は2年生の矢澤蒼に代わってSOの位置に入ると冷静なゲーム運びを見せ、東海大を35-7と突き放して試合を締め括った。
11月26日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた関東大学ジュニア選手権カテゴリー1の決勝。試合後、勝った帝京大学の岩出雅之監督は、隠れた殊勲者の近くを歩きながら「きょうのMVP(のひとり)」と言った。
前半は14-0と帝京大のリードも、後半12分に7点を返し、東海大の勢いは高まりつつあった。それを落ち着いて鎮めた。空いたスペースへキックを蹴り込む。味方を前に出し、相手を背走させる。
「前半から試合を見ていて、(自分が)出たらこういうプレーをしようというイメージを描いて(出番を)待っていました」
だからピッチに立つと迷いはなかった。
「クロスゲームだったので、敵陣に行くことでプレッシャーをかけよう。そう思ってゲームを組み立てました」
青森・八戸西高校出身。高校2年時に同校に赴任したオリンピアンで、女子レスリングの銀メダリストである伊調千春先生にタックルや体の使い方を教わったことがある。
「でも、いちばんタメになったのはアスリートとしての心構え」
大学日本一のチームに加わって、それが生きている。同期で同じポジションに松田力也(レギュラーで日本代表キャップ3)という存在がいても、焦らず、くさらず、コツコツと積み上げてきた。
「力也からは学ぶことがたくさんある。一緒に練習をやっていて、こういうプレーもあるんだとか、発見もあった」
目指すべき存在でありながら、追いつき、追い越さなければ自分がピッチに立てないことは十分に理解しているから、その意識を決して忘れなかった。
「自分が代わりにそこに立てば、チームとしてやるべきことを実践できるように、その準備はいつもしているつもりです。その上で自分の持ち味も出せたらいいな、と。体が小さいので、体を張るプレーをする。その点ではチームでいちばんになれるように、と思っています」
今季、Aチームとしての出場は慶大戦のみ。試合途中、ベンチから飛び出た。気持ちで負けたら終わり。いつもそう思っている。
大学選手権8連覇に向けてひた走るチームの最上級生として、ここからクライマックスまでの道程の中で、自分にできることを探して日々を生きていこうと思っている。チャンピオンチームで過ごした3年間で、何がチームの力になるのかは分かっているつもり。残された学生時代を悔いなくやり切りたい。
「最後の最後まで自分が試合に出ようと思い、必死で毎日を過ごす。一人ひとりの部員がそうすることが、チームを強くすると思っています」
卒業後は釜石シーウェイブスでプレーを続ける。かつて日本選手権7連覇を成し遂げたチームに入る前に、大学8連覇の歓喜を思い切り実感できたらいいな。