法大ラグビー部はどうしたのか。
全国大学選手権では通算3度優勝。全国上位の名門校から有望な才能をコンスタントに集めている。しかし今季は、所属する関東大学リーグ戦1部で苦戦を強いられてきた。昇格したての関東学大にも15-31で屈している(10月30日/神奈川・ニッパツ三ッ沢球技場)。
11月26日、東京・秩父宮ラグビー場での最終戦でもミスを繰り返した。8点差を追う後半30分頃。複層的なラインを敷きながら縦へ横へとボールを動かすも、最後はタッチラインの外へ押し出された。
選手権出場圏内の4位入りを目指していたが、拓大に26-36で屈した。通算戦績を2勝5敗とし、2010年度以来、下部との入替戦に進むこととなった。東福岡高出身の西内勇二副将が声を落とす。
「この試合に賭ける気持ちもあって、いままでにない気合いを入れていた。ただ、それが空回りしていたかもしれません…。プレッシャーもあった」
迷えるタレント集団に噛みついた拓大は、この日、先発メンバー15人のみで試合を終えた。戦前まで2勝4敗と、白星を得ても選手権進出が叶わないなかでの一戦。場内を沸かせたのは、強力なスクラムだった。10メートル以上の押し込みも少なくなかった。
その最前列でヒーローとなったのが、4年で右PRの具智元副将だ。身長184センチ、体重122キロの寡黙なハイスペックアスリートは、学生生活ラストゲームでうれし泣きした。
「最終戦…。いいゲームができたので、嬉しかった」
拓大は17-14のスコアで迎えたハーフタイム直前、自陣中盤10メートル線付近左のラインアウトからの展開でCTBのアセリ・マシヴォウが突破。サポートに駆け付けたWTBの林謙太ゲーム主将がトライを決め、22-14とリードを広げた。
一時は1点差に迫られながら、12分には敵陣ゴール前での肉弾戦からLOのシオネ・ラマベイがインゴールを割る。林ゲーム主将のゴール成功で得点板に「29-21」と刻むと、ここから、かねて優勢だったスクラムで魅せる。
23分、自陣22メートルエリアでの一本。1年で左PRに入る河田和大が、身長172センチ、体重100キロの身体で塊の先陣を切る。後に自分の右わき腹を指し、こう喜びを語る。
「ここ(の密着)が割られないようにしていた。智元さんの押しを感じながら真っ直ぐ押せて…」
拓大のパックは、そのまま自陣中盤あたりまで押し込んだ。法大の反則を奪い、ペナルティーキックを大きく蹴り出す。陣地を進め、ピンチを切り抜ける。
法大の左PRとして先発した西内副将は、「拓大さんは(両PRが)2番(HOのいる方向)へ寄ってきて、矢印のよう。まとまった押しをしてきました」と白旗を挙げる。
一方で、具副将はこう振り返るのだった。
「あの時は、点数的に自分たちが勝っていたので敵陣でプレーしたかった。ペナルティー取るまで押し切ろう、と。すると、相手が崩れてきた」
36分には、自陣中盤左での1本を蹂躙する。それに応えた拓大BK陣は、右タッチライン際でWTBの濱副慧悟がだめを押した。ゴール成功とあいまってスコアは36-21。その瞬間、具はスクラムのあった地点より少し先で味方FW陣と抱擁した。
ノーサイド直前には、敵陣ゴール前でのペナルティーキックからスクラムを選んだ。追加点こそ奪えなかったが、強烈なプッシュはお見舞いできた。
「まずはFWで、モールでも、スクラムでも、プレッシャーをかけてペナルティー取ろうと意識した。特に後半は、それができてよかったです」
1年時は2部落ちを経験。しかし個人では日本代表の練習生となるなど、その才能を期待され続けてきた。
3年のオフから今季中盤までは、国際リーグのスーパーラグビーに参戦した。日本から初めて加わったサンウルブズの一員として、同コンペティション初の韓国人選手となった。
各国代表クラスのチームメイトと同じ時間を過ごし、ストレッチの徹底などの体調管理法を体得。「自信がついた。余裕ができてきた」。その実感を得て、大学ラグビーのラストイヤーを戦ってきたのである。
「大学生活は(過ぎ去るのが)早かった。きょうの試合が最後だったか? と、思うぐらいで。1部も、2部も経験して、毎試合、スクラムを押し込んで…。選手権に出られないのは悲しいですけど、楽しかった」
ラストゲームでの有名校撃破に破顔しつつ、来季のサンウルブズ入りも視野に入れる。期待される日本代表デビューに向けても、「そういう舞台で経験をしないと伸びない。経験したい」と前向きだった。
(文/向風見也)