ラグビーリパブリック

本日(11月1日)から夜勤選手ゼロ。ラガッツのセコム流変革の先に見る夢。

2016.11.01

栗田工業戦でSOを務めた石澤周と、サポートするWTB益子仁紀(写真右)。(撮影/松本かおり)

 曇天。今年いちばんの冷え込みだった。
 しかしスタンドに座った中山泰男社長の体はカーッと熱くなっていた。前半5分、WTB益子仁紀がインターセプトから先制トライを挙げたからだ。
 10月30日、秩父宮ラグビー場。セコムラガッツは出足鋭いシャローディフェンスで栗田工業に圧力をかけ、序盤は健闘した。しかし先制点を挙げる好スタートも、終わってみれば12-78の完敗。これで今季のトップイーストで開幕以来の6連敗となった。
 残念な結果ではある。ただ選手たちは、会社の仲間やファンの声援を受けて最後まで走り続けた。
 後半11分にもトライを挙げ、この日2度インゴールへ駆け込んだ益子が言った。
「秩父宮という舞台。社長も来られているし、いつもよりお客さんも多かった。普段以上に気持ちが入っていました。ひとつめのトライは狙い通り。外側からもプレッシャーをかけていこうと言っていたので。2つめも、相手のミスにつけ込めた。相手がボールを落としてくれたので切り返しました」
 またも大差での敗戦となってしまったものの、決して心は折れていない。残り3試合。なんとか勝利を手にしたいと強く思っている。
 2003年のトップリーグ元年から同リーグに所属し、存在感を示していたセコムラガッツが強化中止を発表したのは2008年度のシーズンオフだった。同チームは2004年度に下部リーグに転落したものの、2005年度、2006年度とふたたびトップリーグで奮闘した。しかし、2007年度からふたたび下部リーグ所属となり、2シーズンを過ごした後に決断した。
「世界的なプロスポーツ化の流れに日本ラグビー界を取り巻く環境も大きく変化している。プロスポーツ化が進行するにつれて、仕事とラグビーの両立が難しくなっているのが現状。創部当時の趣旨とは大きくかけ離れてきている」
 プロ化しなければ勝てない世界になったと判断し、手を引いた。
 あのときから7シーズン、ラガッツは会社からの最低限のサポート(リーグ加盟金への援助など。また、狭山のグラウンドや寮はそのまま使用できた)を受けて活動を続けた。OB会費やスポーツ後援会費、狭山ラグビースクールからのカンパ、部員たちの持ち出しで活動費をカバー。多くの人に支えられて歴史を重ねてきた。
 そんなラガッツにこの秋、朗報が届いた。会社のサポートがふたたび大きくなることに決まったのだ。9月、同社はラガッツをシンボリックチームに認定。会社を挙げて同ラグビー部を支援していくことになった。
 実はここ数年、ラガッツの試合には自分たちの意思で試合の応援に来てくれる職場の人たちが増えていた。以前よりチーム力は落ちたものの、選手たちが夜勤など職場でも一般の社員同様に働きながらも時間を作り出して練習に参加し、試合で奮闘する姿を多くの人が見ていたからだ。職場の頑張り屋さんたちを支えるムードが、社内に自然と生まれていた。その空気が会社上層部にも伝わり、今回、チームに追い風が吹くことにつながったのだろう。
 トップリーグを舞台に戦っていた頃のように、外国人選手、コーチを雇用するわけではないし、多額の強化費を会社が用意するわけでもはない。まずは選手たちの勤務環境の整備から、少しずつ上を目指すチームの体制を作っていく予定だ。
 栗田工業戦を終えた岡本信児ヘッドコーチは、「11月から、これまでのように選手たちが夜勤に就くことがなくなりました。勤務を終えてから練習に駆けつけることに変わりはありませんが、大きな変化。いろんな方たちの熱意のお陰。わくわく感があります」と語った。経験から、夜勤→練習の辛さを知る岡健二主将も「人数が揃って練習できるようになるのは嬉しいですね。大きく変われる期待感があります。ただ環境に甘えるのではなく、真摯に取り組まないといけないと思っています」と話した。来春には、?島理久也(立命館大主将/SH)、 廣瀬直幸(流経大主将/FL)、柳井佑太(東洋大主将/CTB)、葛野翔太(明大/FL)、上野拳太郎(日体大/HO)、水嶌拓也(中大/FL)、明瀬聡太(帝京大/LO)らが新入社員として加入することも決まっている。
 栗田工業戦が終わったあと、中山社長はロッカールームに足を運び、選手たちにこう言った。
「社員の人たちをもっと笑顔にする、応援したいと思われるチームになってください」
 その先にこそ、もっと多くの人たちの声援が待っている。アマチュアとしてやれることをとことんやって、行けるところまでいってみろ。社長の言葉には、そんなメッセージが込められていたはずだ。試合後、ジャージー姿のままスタジアムの正面にまわり、家路に就くファンを見送る選手たちの姿を社長は見ていた。応援する側、される側の間に生まれる熱は、会社を前進させる力になると感じたはずだ。
 入社5年目、昨年は主将も務めた益子は、社長の言葉に気が引き締まる思いだった。
「会社の支援はありがたいですね。その一方で責任も増した気がします」
 そう言ったラガッツのスピードスターは、「すぐに変わるのは難しいかもしれませんが、2年、3年かけて確実にステップアップし、ひとつ上のリーグへ行けるようにしたいですね」と続けた。
 11月1日の朝を新しい職場で迎えた部員たちの表情は、きっとこれまで以上に輝くと同時に、使命感にあふれていただろう。仕事100%、ラグビー100%のバランスはこれからもかわらないけれど、ラグビー100%の到達点は、毎年少しずつ上昇していく予感が漂っている。
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