トヨタ自動車の安藤泰洋主将は、前半31分で退いた。足首を捻挫したようだ。すぐに患部に氷を巻いた。
それでも帰り際には、こう笑っていた。
「それほどシリアスではないですね、感覚的に。普通の人だったらイっていた(重度の怪我を負っていた)と思いますけど、僕、もともと足首の関節が柔らかいんです」
10月16日、埼玉・熊谷陸上競技場。日本最高峰のトップリーグ第7節でオープンサイドFLとして先発も、ハーフタイムを待たずに負傷交代。チームはNTTコムに13−19で敗れ、主将就任1年目の今季成績を4勝3敗としている。
試合後の会見では、こう話していた。
「ミスが多かったです。プレッシャー下でもしっかりと実行力を持たないと、こういう結果になる。ただ、下を向いても仕方がない。以上です」
現状は素直に認め、それでも前を見る。
シーズン前は、大きな飛躍を果たしていた。国際リーグのスーパーラグビーへ日本から初参戦するサンウルブズへ、2月に合流。4月23日に東京・秩父宮ラグビー場であった第9節でデビューを飾ると、ジャガーズを相手に初勝利を挙げた(36−28)。
日本代表デビューも飾った。4月30日、神奈川・ニッパツ三ツ沢球技場。韓国代表に85−0で勝ったアジアラグビーチャンピオンシップ初戦で、持ち味である献身的なプレーを全うした。
世界的に代表活動がさかんになっていた6月も、サンウルブズの主力を交えたジャパンに仲間入り。11日にバンクーバーのB.C.プレイススタジアムであったカナダ代表戦では、ゲーム副キャプテンという重責を担った。
26−22で勝利したこの日は腰痛のため前半だけで退くも、7月以降も続いたスーパーラグビーでは計7試合に出場。サンウルブズと6月の日本代表で主将を務めた堀江翔太とは、普段から行動をともにするなど絆を深めた。
身長181センチ、体重96キロの29歳は、ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチ(HC)率いる秋のジャパンでも活躍が期待されていた。
「そう思ってくれているのであれば、春のインパクトは大きかったんだな、と」
しかし、10月に発表された日本代表候補メンバーに、その名はなかった。選考に携わった薫田真広・15人制ディレクター・オブ・ラグビーは、特にその詳細を明かしていない。
当の本人は、随分とさっぱりしていた。
「僕のところに何の話も来ていないので、普通に外れているのだと思うんですけど」
実は9月4日、クボタを27−10で下した北海道・月寒ラグビー場での第2節でも、重度の怪我を負っていた。続く10日の第3節は、他の主力組とともに休養(三重交通G スポーツの杜 鈴鹿 サッカー・ラグビー場でホンダに32−30と辛勝)。17日の第4節(パロマ瑞穂ラグビー場で神戸製鋼に7−27で敗戦)で復帰したが、ここまでのプレーに満足できずにいた。
「ホンダ戦は出ていないですし、戻ってからも痛みが残ったままやっていて。これで選ばれたらラッキーだな…くらいの感じでした。外れたのは悔しいですけど、僕自身、それ(選出)に値するパフォーマンスはできていないと思っていました」
NTTコム戦中に引き下がった背景も、こう語る。
「いまは自分のパフォーマンスが良くない。それは春から突っ走ったことで、自分の肉体的、メンタル的な(負の)要素があるからかな…。こじつけですが、そう思ったので。だからきょうは無理せずに。いまは耐えよう、という感じです」
休みもそこそこに国際経験を積んだシーズン前の出来事を、「めっちゃいい経験でした。ただ、いろんなものが重なって、メンタル的な要素は…」。11月からの代表ツアーでプレーするのが濃厚な堀江らの名前を挙げ、「ずっとプレーしていて…。リスペクトします」とも続けた。
いまできることは怪我を治すことと、主将を務めるトヨタ自動車を勝たせることだ。23日に予定される第8節(福井・テクノポート福井スタジアム)の相手は、コカ・コーラである。
(文:向 風見也)