ラグビーリパブリック

ハル、変化の中で戦うシーズン クボタスピアーズ CTB立川理道

2016.10.20
花園でおこなわれた宗像サニックス戦での立川理道(撮影:松村真行)
 「ハル」は2016年、大きな変化を迎えている。トップリーグ(TL)、クボタスピアーズのCTB立川理道(はるみち)である。
 今年度、所属先では主将を任される。社会人5年目。年子の兄・直道のあとをとる。時を同じくしてプロにもなった。さらに新規参入した日本チームのサンウルブズでスーパーラグビーを戦う。
 日本代表キャップは46。天理で生まれ、22歳までこの奈良県南東部の街で暮らしたハルは、この国のラグビーの「顔」に成長する。そして、変移の中でさらに挑戦を続ける。
 主将への思いを10月1日に発売された『ハルのゆく道』(道友社、村上晃一著)で述べている。ハルの半生記本である。
<キャプテンらしくではなく、自分らしくあること。それが大事であることを、それぞれのリーダーから学んだ>
 ここでのリーダーは日本代表でともに戦った主将経験者たち、昨年度で現役引退した廣瀬俊朗(東芝ブレイブルーパス)、リーチ マイケル(東芝)、堀江翔太(パナソニックワイルドナイツ)である。
 廣瀬は怒らず、辛抱強い。リーチはプレーで引っ張る。堀江は自分を持つ。ハルは、それぞれの色を感じる。
「いろいろなリーダーに出会えたことがプラスになっています」
 自分という固有を大切にしながら、そこに先輩たちから学んだものを取り入れる。
 「ハルWAY」の構築である。
「キャプテンというのはチームのみんなとは平等ではありません。でも僕は上からものを言うキャラではない。みんなとフラットな関係でいながらも、何か違うところを見せられたらいいなあ、と思います」
 ぼんやりとした形はある。
「みんなの先頭に立つことを意識して、周りの変化、例えばわずかな表情でも読み取れるようにしないといけません。そして、失敗しても、その過程を見るようにしたい」
 率先垂範。その上でチームの勝敗に責任を持ち、携わる人すべてが心地よくラグビーをできることに心を砕く。
 クボタの新ヘッドコーチには南アフリカ出身、48歳のフラン・ルディケがついた。ハルの主将就任と同時期だった。スーパーラグビーではキャッツとブルズを指揮。ブルズでは2009、2010年と連覇する。
 ハルは新指揮官に信頼を寄せる。
「フランさんに、僕たちみんなは見てもらっているという意識があります」
 昨年度で現役を引退、現在はチーム内で「広報・普及」を担当する前川泰慶は評する。
「僕たちスタッフも含めて、包み込むような感じなんですよね」
 世界最大の悪法と言われた「アパルトヘイト」(人種隔離政策、1994年廃止)の中に生き、教員でもあったルディケは、言葉を荒げない。穏やか。相手の目を見て会話する。
 主将として「表情の変化を逃さない」を掲げるハルにとって、スタートの年に上に座る人物にめぐまれた感じはある。
 主将就任と同時に、会社とプロ契約を交わした。ラグビーに人生をかける。
「これまで社業をしていた時間にトレーニングしたり、リカバリーしたり、レストを入れたりしています。自分の時間ができることは大事だと思っていたので、会社の対応はすごくありがたいです」
 プロとして臨んだスーパーラグビーは15試合中13試合に出場。世界最高峰のリーグに加わり、さらに経験値を上げた。
 今季のTLはこれまで7試合中6試合に出ている。脳震盪(のうしんとう)で欠場した第6戦、ヤマハ発動機ジュビロ戦以外、すべてインサイドCTBとして先発する。
 10月15日、東大阪市花園ラグビー場であった第7戦、宗像サニックスブルース戦では長所を見せ、28−27の勝利に貢献した。
 風上になった後半19分、自陣22メートルライン内側から、相手インゴールまで転がるロングボールを蹴り込んだ。
 同28分には左WTBの高橋拓朗に、ディフェンダーと接近した中で約20メートルの長いスクリューパスを放った。わずかにスローフォワード判定が出る。
「僕はすれ違いで勝負するので、スローフォワードやインターセプトの危険性は常にあります。だから気にしていません」
 このパスが通ればトライになっていた可能性が高い。力が拮抗(きっこう)すればリスク承知の戦いは当然。それは主将として勝利に向けた責任感の表れである。
 現在、クボタはリーグ戦10位だ。
「少しずつですけど、チームに勝つ文化を作っていけたら、と思っています」
 相手や状況に関わらず、コンスタントに力を発揮するのは強豪の証し。ハルは、英語で言う「Winning Culture」の定着を目指した上で、具体的な目標にも言及した。
「もちろん最終目標は日本一だけれど、今の力で達成は難しい。まずはトップ8に入ること。新しいクボタを見せたいですね」
 クボタは昨年度、8チームに分かれたリーグ戦で2勝のみだったが、今年度はリーグ戦8試合残しで、すでに3勝している。
 自身にとってもチームにとっても変革の2016年。ハルは全身全霊で舵取りをする。
(文:鎮 勝也)
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