ラグビーリパブリック

恩返しの勝利。宗像サニックスPR石澤輝、古巣の前でかがやく。

2016.10.03

好調・宗像サニックスをささえる一人、PR石澤輝(左)。(撮影/毛受亮介)

 背番号18は靴紐を緩めていた。
 キックオフから2分後だった。タイトヘッドプロップとして先発していたヘンカス・ファン・ヴィックが頭部を強打して脳しんとうの疑いがあり、一度ピッチを離れたからだ。突然出番が回ってきた。宗像サニックスの石澤輝(いしざわ・ひかる)は慌てて靴紐を締め上げ、ピッチに飛び出て7分間プレーした。
「後半からかな、と思っていたので焦りました。まだ息も上げていなかった。でも、2回目(ファン・ヴィックのシンビンで前半27分から10分間)の出場のときは準備はできていました。結局先発より長くプレーできた(後半9分からの出場も合わせ計48分プレー)」
 東芝に31-21と快勝した試合のあと、今季から新しくブルースに加わった男の表情は清々しかった。
 昨季まで対戦チームのプレーヤーだった。法大を卒業後、東芝に入社。2シーズン在籍し、昨季も7試合でプレーしている。
 そんな男が府中を離れ、西に向かったのには事情があった。難しい状況の中でも自分を支えたのは、ラグビーを続けたい強い気持ちだ。それがあったから送り出す側、受け入れる側があった。
 古巣との試合前夜、「緊張して寝付きが悪かった」。両チームへの感謝の思いが気持ちを高ぶらせたからだ。
「試合に勝ったときには涙が出ました」
 試合前、東芝・冨岡鉄平ヘッドコーチに「ちゃんとやってんのか。なんでリザーブなんだよ」と声をかけられた。優しさを感じた。
 恩返しはプレーで見せた。バインドを固め、低く構える。宗像サニックスが勝利を得るための条件のひとつだった『スクラムの安定』を仲間と実現させた。
「(東芝の)組み方は分かっていますから、対応もできました」
 必死に戦ったこの日の48分。そして今季これまでの戦いの中で、ブルースの魅力をより深く理解できるようになった。対戦相手だった昨年までも「よく走るチーム。トリッキー」と感じていたが、それだけではなかった。
「みんなハートが強いんですよ。外国人選手もそうですが、日本人の選手たちも試合中にそこが大事だと声を掛け合っている。そしてみんなアグレッシブ。練習のときは丁寧にコンビネーションを繰り返し、試合になると本当に全員が思いっきりやる」
 チームは目標である上位進出へ好スタートを切っている。その中にいられる幸せを感じている。
 試合後の記者会見で、FL田村衛土主将が言った。FWの奮闘について話したときだった。
「石澤が最高のスクラムを組んでくれた」
 チームメートのそんな言葉は、マン・オブ・ザ・マッチの表彰をされるより嬉しかったはずだ。
 気温30度超の中での激戦を終えて、石澤は汗を拭きながら言った。
「この試合に自分が出て勝つことで、これまでお世話になったチームにも、受け入れてくれたチームにも恩返しできると思っていました。よかった」
 勝利の夜の祝杯はきっと最高だった。そんな夜を、この先何度も続けたい。
 
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