<ジャパンラグビートップリーグ 2016−17 第5節>
クボタ 20−29 近鉄
(2016年10月1日/東京・秩父宮ラグビー場)
前年度12位でここまで2勝2敗のクボタと、同7位で1勝3敗だった近鉄。いずれも新体制のもと上位進出を伺う者同士がぶつかった。
勝ったのは近鉄だ。クボタは近鉄にチャンスを手渡し、近鉄はそのチャンスを得点に変えた。
3−0で迎えた前半16分、クボタのSOルイ・フーシェが、自ら蹴ったキックの落下地点で空中の相手と交錯。一時退場処分を受けた。
陣地獲得のキーマンを失ったクボタを前に、近鉄は直線的に攻める。
25分、敵陣ゴール前左のラインアウトから逆へ振る。FBアンドレ・テイラーが駆け、CTB井波健太郎が止めを刺す。8−3。
クボタはまもなくSOフーシェが復帰し、30分台は概ね敵陣ゴール前でプレー。しかし、チャンスをみすみす逃した。密集周りでの落球が目立ち、3−15とリードされハーフタイムを迎えた。
「クボタのペースになるような働きかけをしよう」
後半初頭。皆にこう発破をかけたCTB立川理道主将が、SOフーシェとともにタクトを振るう。かたや近鉄は、LOトンプソン ルークいわく「メンタルが(ハーフタイムから)切り替わってなかった」ようだ。
10分、敵陣で近鉄がラインアウトを逸する形でクボタにチャンスが転がる。最後は敵陣ゴール前左でSOフーシェ、CTB立川理道主将とつなぎ、FB合谷和弘がクボタの逆転を呼んだ。SOフーシェのゴールも決まり、20−15。フラン・ルディケ ヘッドコーチ(HC)は、この先の展開を読む。
「こちらが点差で勝っている時は、敵陣に入るようコントロールを」
しかし、そうはならなかった。CTB立川理道主将はこう述懐する。
「僕の考えですが、逆転してからチームが守りに入ったというか…」
要は、リードしたゲームを勝ち切るという主体性を失ったのである。
近鉄は敵陣深い位置でのスクラムで反則を犯すなど、しばしさまよった。それでも自陣で展開する援護が遅れた後半16分、身長201センチのFLグラント・ハッティングの持ち込んだボールへ、20センチ小さいFL佐藤幹夫が絡む。クボタ、球を手離さないペナルティを取られる。
ルディケHCのいう「敵陣」に入れたのは近鉄で、20分、手数の少ない攻めで22−20と逆転した。
さらにクボタは、25分から立て続けに笛を吹かれる。そうして手渡されたチャンスで、近鉄はまたも敵陣へ進む。32分、29−20とした。
あるメンバーによれば、「(クボタに)助けられた部分もあった」という近鉄。もっとも、ただクボタからチャンスをもらっただけではない。クボタからチャンスをもらうための準備をしていた。
32分のだめ押しの契機となったのは、25分の自陣22メートル線左での相手ボールラインアウトでの守り。ゆっくりと確保に入るクボタを向こうに、FL佐藤は「必ずモール」と読む。塊の隙間へ、皆で身体を差し込み、押し返す。クボタが反則を重ねるのは、ここからだった。
分析の岡元義洋は、件のワンプレーを「やることは決まっていた。練習でクボタ役をしたBチーム(控え組)に感謝です」と振り返った。
(文:向 風見也)